第75章―24
さて、そんな世界初の有人宇宙飛行の成功から、黒田栄子と徳川秀忠との会談までは、ほぼ一連の行事として行われたと言っても過言では無く、世界中でもそんな感じで報道が行われた。
そして、トラック基地の現場の面々の反応を、まずは語るならば。
「本当にここまで騒がれるならば、素直になれば良かったかな」
「後悔、先に立たず、という言葉があるそうだが、本当にその通りだな」
ウィリアム・バフィンやヤコブ・ルメールは、そんな感じで言葉を交わす羽目になった。
素直になってさえいれば、自分が世界初の有人宇宙飛行を行える可能性があったのだ。
それなのに、自分で宇宙船の操縦等をしたい、と主張したばかりに、黒田栄子に栄誉を譲ってしまうとは。
二人にとって、ここまで世界的な騒ぎになるならば、素直になるべきだった、と後悔しきりだった。
だが、裏返せば。
「世界初の有人宇宙飛行が無事に成功した以上、この経験を糧にして、次からは宇宙船の操縦や宇宙空間での作業をすることが試みられるだろうな」
「その通りだな」
「そして、黒田栄子は暫くお役御免になる、という噂が流れている」
「ほう」
「何しろ世界初の有人宇宙飛行に成功した宇宙飛行士だ。それこそ世界中の国や人から、黒田栄子の下には訪問希望が殺到しているらしい。その中の人には、日本の今上陛下や、ローマ帝国のエウドキヤ女帝陛下までもおられるとか」
「成程、無下に扱う訳には、とても行かないな。黒田栄子は、結果的に世界中の国や人を歴訪せざるを得ない状況にある訳か」
「だから、黒田栄子が宇宙に赴けるのは、かなり先にならざるを得ない。その間に、自分達は宇宙に赴いて、宇宙船の操縦や宇宙空間での作業を行える訳だ」
「それは楽しみだな」
二人は、悔しさを感じる一方で、未来を楽しみにすることにした。
そして、ガリレオやケプラーは、この結果を素直に喜んでいた。
「本当に人類が宇宙空間に赴けるとは」
「後、10年以内に月面に、更には数十年先には火星や金星といった他の惑星に、1世紀以上未来になれば、それこそ他の恒星系にさえも人類は赴けるかもしれないな」
「自分達の目が黒い内に見られるのは、人類の月面到達だけだろうがな」
「だが、他の惑星を探査する計画が立てられつつあるからな。それも、又、楽しみだ」
「そういえばそうだ」
二人は笑い合った。
実際、二人の会話は誤っていなかった。
太陽系にある他の惑星の実際の姿はどうなのか。
無人探査機を、まずは金星や火星に送り込もう、更には、水星や木星といった遠方の惑星にも、何れは無人探査機を送り込もう。
そういった計画が、徐々に立てられており、実際に無人探査機の設計、製造を試みようとする段階に徐々にたどり着きつつあったのだ。
だが、それはそれで。
この頃の池田元助は、主にストレスからり患した胃潰瘍を手術で治して退院し、暫く短縮勤務を行った後で、ようやく通常勤務を送れるようになった有様だった。
胃潰瘍の手術の結果として、胃を半分以上切除する羽目になっており、禁酒禁煙を医師には命ぜられて、更に手術前は平然とどんぶり飯を食えたのが、今や妻の茶碗と同じ大きさの茶碗に一杯しか、無理をしてもご飯を食べられない有様だったのだ。
そんなことから。
「まるで食べ盛りの学生のようですね。日に五、六食ですか」
「一度に食べられないからな。一食の量を減らすしかなく、そうなるとすぐに腹が減ってな」
部下の揶揄する口調に対し、元助は苦笑いしながら答えるしかなく、更には。
本当に惑星探査計画の開始とか、有人宇宙飛行計画の続行とか。
人に優しい計画でありますように。
そう何時も願い続けながら、仕事をする日々を送らざるを得なかった。
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