第75章―23
そんなことがあった末、1611年12月、世界初の有人宇宙飛行は行われることになった。
尚、少しでも黒田栄子が生還できるように、そして、世界が協働したことで、この大事業が成功したことが示されるようにということから。
「私はパラシュート降下するのですか」
「正直に言って、宇宙船による地上への生還が上手く行くか、自信が無い。実際に失敗例もあるからな」
「確かに」
上里秀勝長官は、直々に黒田栄子と会話した。
「最初は何としても生還する必要がある。最初が死亡では、後に続く者の不安が増すことになる」
「仰られる通りです」
「そして、安全性からトラック基地は設けられていて、宇宙船の着水は南太平洋に行うことになっていたが、余りにも南太平洋は広大だからな」
「日本が保有する艦艇の半分以上を投入するそうですが、それでも精確な着水場所に速やかにたどり着けるか、保証はできないそうですね」
「その通りだ」
二人の会話は続いた。
「勿論、宇宙船は水面上で漂えるように設計、建造されているが、そうは言っても、万が一ということがある。それに海軍艦艇はどうのこうの言っても、男の職場だ。女性の君がいるのはな」
「言葉を濁されずとも、分かっていますよ」
上里長官に栄子は言葉を返した。
実際にその通りで、1万トン以上の大型水上艦なら、少数の女性の海軍軍人が乗り組むようになっているが、それより小さい水上艦や潜水艦は現在でも女人禁制と言っても過言では無い。
だから、栄子が宇宙船と共に着水するということについては、安全性の問題と共に海軍側が微妙に難色を示す事態が起きたのだ。
そうしたことから、発想が転換されて。
北米共和国上空、約1万メートルの高空から、まずは栄子のみが宇宙船から射出されて、パラシュート降下する。
尚、宇宙船はそのまま東太平洋に着水して、日本海軍の水上艦艇が回収する。
その一方、栄子は地上に降り立った後、北米共和国に救出(?)されて、その足で従兄になる北米共和国大統領である徳川秀忠と会うということに最終的にはなったのだ。
「本当に凄い訪問方法の気がしますね。宇宙を経由して、従兄を初めて訪問するとは」
「これが男性の宇宙飛行士だったら、更に君が徳川秀忠の従妹でなければ、こんな宇宙からの帰還方法等は行われなかっただろうな」
「でも、世界中が驚く方法ですよ。何としても成功させましょう」
「そうだな」
最後には栄子の方が、上里長官よりも、この帰還方法に乗り気になった。
そして、1611年12月のある日。
「クマが浮かび上がりました。私も重力を全く感じません。宇宙空間にたどり着きました」
「こちらも画像で確認した」
世界初の有人宇宙飛行の最初の段階、宇宙空間に人を載せたロケットを打ち上げることに、まずは成功することになり、栄子は管制塔の職員と、そんなやり取りをした。
そして、
「地球が見えます。海面が地面よりも広く、青い部分が多いのが分かります」
栄子は、更に管制塔に報告し、他にも幾つかやり取りをした。
この言葉が、後になって、
「地球は青かった」
と世界に流布することになった。
更に地球を1周余りした上で、栄子は地球に帰還することになった。
予定通りに、高度約1万メートルで宇宙船から射出され、北米共和国内に栄子はパラシュートで降下することに成功した。
又、宇宙船も着水に成功し、日本海軍の艦艇が無事に回収した。
その足で、栄子は徳川秀忠に逢って、大歓迎されることになったが。
栄子の本音としては、かなり複雑な想いだったらしい。
何しろ伯父の家康は、日本から独立戦争を引き起こし、栄子の義父2人は、それで戦死しているのだ。
秀忠に咎は無いが、栄子は色々と考えてしまった。
建前としては、従兄の北米共和国大統領に逢うのを、栄子としては喜ばざるを得ないのですが、本音は又、別なのです。
ご感想等をお待ちしています。




