第75章―20
さて、何で俺達は犬じゃない、と宇宙飛行士が零す事態が起きているのか、というと。
(史実と同様に)宇宙に人類というか、生命体を赴かせても大丈夫か否か、それを確認するために(この世界でも)複数の犬や猿等が、これまでに宇宙空間に弾道飛行や軌道周回飛行によって赴く実験が、この世界でも何度も断行されていた。
そして、その中ではチンパンジーを使って、宇宙空間でレバーを引く、要するに宇宙空間で作業ができるか否かの実験までが、これまでに行われていたのだ。
その結果として、人類が宇宙に赴いても大丈夫だろう、という結論が出てはいたのだ。
とはいえ、この実験の危険性というか、生還率は極めて低いモノで、徐々に成功率が上がってはいるものの、この時点までに行われた実験に参加(?)させられた動物の過半数が、宇宙で亡くなるか、地球への帰還に失敗して帰還中の大気圏内で亡くなるか、という事態を引き起こしていたのだ。
(要するに宇宙から帰還して地上で生きられた動物は半数に満たない、という現実があったのだ)
そうは言っても、時代が時代である。
特に欧州出身(及び欧州から日系諸国に移住してきた)者の面々は、命知らずが揃っていた。
何しろ「皇軍来訪」以前は、世界各地に帆船で赴いての探検事業が当たり前で、その探検事業については生還率が半分を切っていたのだ。
それから70年近く、更に言えば、欧州に「皇軍来訪」が具体的に伝わったと言えるのは、それこそ日本対スペイン戦争が本格化した1560年代以降という事を考えれば、まだ50年程しか経っていない。
(メタい話を敢えてすれば)それこそ昭和の根性物語に、令和になっても少なからずの日本人が、それなりに親和感を覚えるような感じで、命知らずの面々が、危険をモノともせずに宇宙に赴こうとしている時代だったのだ。
だから、宇宙に赴くだけでも、命懸けの大冒険と言っても当然の現実があったのだが。
折角、宇宙に赴くのならば、それこそ様々な作業を自分達に宇宙でさせろ、それこそ猿、チンパンジーでも宇宙空間でやっているではないか、そういった作業をさせないとは、俺達を猿以下、犬だというのか、という主張を、命知らずの冒険をしてきた父祖の話を聞いて育った多くの宇宙飛行士達にさせる事態を引き起こしていたのだ。
だが、肝心の宇宙ロケットの打ち上げや制御等を行う面々にしてみれば、そんな主張は受け入れられる代物では無かった。
それこそ超音速戦闘機を自分達は操縦した経験がある以上、宇宙船も操縦できると宇宙飛行士達の多くは言うのだが。
超音速戦闘機の最高速力の10倍近い高速で、宇宙船は宇宙空間を飛行するのだ。
(この当時の超音速戦闘機の最高速力はマッハ3近くに達してはいたが、軌道飛行をする宇宙船の速力は概算で不正確な比較だがマッハ23に達するのだ)
そうしたことからすれば、全く人類が宇宙空間に赴いてもいない段階で、初の有人宇宙飛行の際に宇宙飛行士に様々な作業を併せて宇宙でさせる等、正気の沙汰とは、宇宙ロケットの打ち上げや制御等を行う面々にとても言えない話だった。
だから、宇宙ロケットの打ち上げや制御等を行う面々は、世界初の宇宙飛行士は、我々の完全制御で動く宇宙ロケット、宇宙船に乗るべきだ、と言ったのだ。
そうした事情から、宇宙ロケットの打ち上げや制御等を行う面々は、多くの宇宙飛行士達の主張を端から拒絶するような態度を執ったのだが。
これはこれで、多くの宇宙飛行士たちの(現代で言えば)サボタージュを引き起こし、喧嘩というか、対立が深化する事態にまで至った。
そんなことから、黒田(保科)栄子が、世界初の宇宙飛行士になることになった。
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