第75章―15
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更に問題になったのが、こうして急きょ作り上げられた制御班内部の意思疎通である。
この世界では、日本語が世界の共通語といって良い存在になっており、日本人はお互いに日本語で意思疎通を行うので、問題は乏しいのだが。
とはいえ、まだまだ日本本国各地の方言は根強い有様(何しろ「皇軍来訪」から70年近くが経った段階で、史実で言えば昭和10年代レベル)で、一部の地方では校則で方言禁止令が出る程だった。
それが、日系植民地の日本語となると、各地の方言や元からいた原住民の言葉(単語)が入り混じり、混沌たる有様のところが珍しいどころではなかった。
北米共和国になると、多数の日本人以外の移民も来ることによって成立した国家といえ、更に原住民は従来からの言語を保持していることから、国内では日本語が唯一の公用語扱いをされているが、家庭内では日本語以外で日常会話を行っている者が稀どころか、半数近くいると推計される有様で、日本語と言っても独自の変化を生じていた。
だから、口の悪い一部の日本本国民に言わせるならば、北米共和国の日本語は、北米共和国語と呼ばれるべき代物では、という現実があった。
これがローマ帝国になると、更に酷くなる。
それこそ領土内に大量の現地民の言葉を抱え込んでいるのだ。
思いつくままに挙げるだけでも、ロシア語、ウクライナ語といった東スラブ系言語、セルビア=クロアチア語を筆頭とする南スラヴ系言語、ギリシャ語、イタリア語やルーマニアといったラテン系言語、更にはアラビア語が挙げられる有様で、それぞれが各地域の公用語になっていた。
他にも様々な少数言語をしゃべる者が、それなりどころではなくいるのだ。
尚、帝国全体の公用語としては、ラテン語、ギリシャ語が東西教会の関係から選ばれており、又、建国のきっかけ、事情から、日本語も帝国全体の公用語になっていた。
だから、このトラックに赴いているローマ帝国関係者は、表向きは日本語が堪能な面々ばかりの筈なのだが、現実には、日本本国出身者からすれば、どこが日本語なのだ、という日本語を喋る面々が珍しくない現実があった。
(これが日本語の読み書き問題になると、もっと深刻になってくる。
このトラックに赴いているローマ帝国関係者で、日本語の読み書きが日本語新聞を読めるレベルでできるのは半数以下だった。
当然のことながら、専門文書を読み書きできる者は、もっと少なくなる)
そういった諸々を考え合わせる程に、ロケットの打ち上げから、人口衛星、放送(通信)衛星を静止軌道に投入するとなると、制御班の面々が大いなる不安に駆られるのは、当然の事態だった。
何しろロケットの打ち上げから、静止軌道に安定して投入するまで、予めそれなり以上の準備が為されているのは当然だが、そうはいっても最終の微調整が必要不可欠だ。
そういった際に、日本語の指示が円滑にできないでは、冗談では済まない事態が起きてしまう。
そうした事情を制御班の面々が切々と訴えた結果。
最終的には、このときの放送(通信)衛星の軌道投入については、静止軌道で行われるということは、上里秀勝長官の直々の最終判断ということで、取り止められることになり、同期軌道で投入されるという事態が引き起こされることになった。
それでも、制御班の面々にいわせれば、成功が危ぶまれる状況ではあったが、神の御加護(どんな神の加護があったのか、色々と考えられるが)のお陰で、5月初めから始まった放送(通信)衛星の打ち上げから軌道投入は、相次いで成功することになった。
その結果として、
「日本の皇太子殿下の御成婚式が、世界中で同時中継されています」
という成功がもたらされた。




