第75章―13

　そんなことをガリレオとケプラーがやっていたのと前後して、池田元助は日本の各所とのやり取りに頭を痛める事態になっていた。

「分かっている。無理は無理、と言われるのは。だが、やらねばならないのだ」

　そんな感じで、日本の各所から上がってくる苦情等を圧殺する役目を、池田元助は主にやっていた。

　池田元助は、元をただせば日本陸軍の技術士官である。

　更に言えば、これまでの様々な経歴から、結果的に日本でロケットや人工衛星等を製造する企業等とのやり取りを主にやる、一般的に言えば管理部門の仕事をする状況に当時はあったのだ。

　池田元助にしてみれば、こうなることは自明の理と言って良かった。

　何しろ日本の企業等にしても、急に予定変更と言われて、対応するのは不可能に近い。

　来年の秋以降に本格化するという話が、事前に行われていたのに、半年以上も前倒しして、放送（通信）衛星を製造して、実際に宇宙に打ち上げるのだ、と言われても。

　そんなことはできません、と企業等が言って来る方が当然だ。

　

　だが、自分の立場からして、そんな企業の主張は圧殺せざるを得ない。

　何しろ世界の三大国、日本、北米共和国、ローマ帝国の宥和等が世界に示される史上空前の御成婚式を世界に同時中継しようというのだ。

　しかも、世界の三大国の最上層部が揃って言ってきている。

　こんな盛儀をできませんと言って潰しては、どんな後難が引き起こされるか。

　自分は最低でも生涯の南極送り、普通に考えれば銃殺刑という事態になってもおかしくない気がする。

　そんなことから、池田元助は現場の窮状を上に素直に伝えることで、自分の責任を少しでも軽くすると共に、企業等の要求にも道理があるとの空気を上に広めようと努力することになった。

　そして、それはそれなりにだが、報われることになった。

「三交代制導入によって２４時間の工場稼働を行うことで、人工衛星やロケット製造を大幅に促進させることを、何とか財政担当者に呑ませることができたか」

「１日８時間の工場稼働ではどうにも間に合いません、と訴えた甲斐がありましたな」

「三交代制導入ということは、深夜手当等も払うことになるからな。１日８時間の工場稼働を行うよりも、人件費が最低でも４倍、普通に考えれば５倍は掛かることになるから、財政担当者が渋るのも当然だが、そうして貰わないと、放送（通信）衛星の製造から動作確認等、様々なことが間に合わなくなる」

「全く仰る通りです」

　池田元助は、腹心の部下とそんな会話を交わすことになった。

「一部の財政担当者に至っては、設計が完璧ならば、問題無く稼働する以上、地上での動作確認等は不要では、更にお金が掛かるだけでは、とまで言われたが。動作確認もせずに打ち上げ等、できるものか」

「全くその通りです」

　鬱憤がお互いに溜まっていることもあり、二人は更にそこまでの会話を交わした。

「自分は日本の企業等とやり取りをするだけで済んでいるので、他の国の現状はよく分からないが。恐らくほぼ同じなのだろうな」

「私もそう考えます」

　二人のやり取りは続いた。

　実際に二人のやり取りは、そう間違ってはいなかった。

　日本以外の北米共和国やローマ帝国の企業等も、日本の企業等と同様に２４時間フル稼働を工場等の現場に対して強いているのが、当時の現実だった。

「ともかく最低でも全部で６個、更に万が一を考えれば、更に完成済みの予備機を２個は準備しておきたいものだが、金は出るだろうか」

「世界の三大国最上層部のお声掛かりですから、出ると考えますが」

「そうだな。そうでないとやっていられないな」

　そんな会話を、池田元助と部下は最後には交わす羽目になって、後に元助は胃潰瘍で入院した。