第75章―9
さて、そんなこんなの状況にある中で、時は少し流れて。
1611年2月上旬の土曜日の夜、ガリレオとケプラーはトラックの酒場でビールを飲んでいた。
実を言うと、お互いに身体的には疲労していて、少しでも自宅で惰眠を貪りたい気分だった。
だが、その一方、精神的にはお互いに愚痴をこぼさないと、どうにも耐えられなくなっていた。
そんなこんなから、お互いに余り馴染みのないビールを酌み交わす事態が起きていたのだ。
(この世界のガリレオは史実同様にイタリア生まれだが、ケプラーは北米共和国生まれになる以上、共にビールは微妙に縁が薄い飲み物になる)
お互いの本音を言えば、それなりに強い酒、ワイン等を共に強かに飲みたい気分ではあったが、自分の体調を考えれば、そんな風に酒を飲んでは、良くて悪酔い、下手をすると寝込む程に身体を壊しかねない、と共に考えたのだ。
「乾杯」
ビールが入ったコップを打ち鳴らして、お互いにそれなりに喉を潤した。
「美味いな」
「ああ、気持ち冷えているのが有難い」
「全くだ」
トラックは赤道直下に近く、2月でも欧州ならば真夏で通る暑さだ。
そうしたことも相まって、氷や冷水で少し冷やしたビールを共に美味く感じざるを得ない。
「本当に「皇軍来訪」前には考えられなかったことの一つだな」
「全くだ」
お互いに本音では思い切り愚痴りたいことが、それなりにどころか、かなり溜まっている。
だが、それなりに前置きをしないと、どうにも話せない程に重いのも現実だった。
「イタリアにいる頃というか、ローマ帝国再興以前に、夏に冷えた飲み物を飲みたい等、ぜい沢極まりない話で、自分のような立場では不可能と言って良かったが、今ではこんな風に酒場で飲めるとはな」
「それについては、自分もかなり似たようなことを想うな。北米共和国生まれの自分だが、そうはいっても、子どもの頃はこんな風に夏に冷たい飲み物を飲むというのは、余り考えられなかった」
ガリレオとケプラーは、そんな言葉を、まずは交わした。
勿論、夏でも冷たい井戸や冷泉といったものは、この当時に史実でもあるが、ちょっと冷えているというのが関の山で、しかも傍でないと、すぐに温まってしまう。
だから、二人がこんな会話を交わすのも当然だった。
「さて、冷たいビールで喉を湿らせた上で言うが、軌道計算はどんな状況だ」
「何だかんだ言っても、(放送(通信)衛星の最低必要数の関係から)6つも計算しないといけないからな。本当に大変だ。だが、最新式の電子計算機のお陰で、かなり助かっている」
「真空管からトランジスタに完全に切り替わった電子計算機だったかな」
「その通りだ。最もトランジスタの時代も、そう長くは続かないだろう。集積回路(IC)が開発されて、大量に量産化される目途が立ちつつあるからな。後、数年もすれば、集積回路を用いた電子計算機が造られて、更に量産化されるだろう」
ガリレオの問いかけに、ケプラーはほぼ即答するやり取りをした。
実際に(メタい話にどうしてもなるが)史実同様に、この世界でも電子計算機は日進月歩と言っても過言では無い状況にあった。
それこそ1590年頃に真空管を用いた電子計算機(史実で言えばエニアックに准じた)が開発されて量産化が図られることになったのだが。
それから20年程で、真空管を用いた電子計算機は徐々に廃れ、トランジスタを用いた電子計算機が今では主流になっており、更に集積回路を用いた電子計算機が主流に切り替わる時期が、徐々に迫りつつあるというのが、この世界の現実だったのだ。
ガリレオは、ローマ帝国再興以前にアバカス(算盤)を用いて計算したのを思い起こし、時の速さを思わず痛感した。
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