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第75章―4

 そんなことから、出会った当初は、ウィリアム・バフィンとヤコブ・ルメールの仲は微妙なものがあったとしか、言いようが無かった。

 片や北米独立戦争で傭兵としてこの地に赴き、それなりに軍人として成功した者の息子に対し、日本の勃興によって破産して年季奉公人として自分や家族を売ってこの地に赴いてそこで成功し、年季奉公明けに更に商売で成功した者の一族の一人である。

 何となく肌が合わない、とお互いに直感したのも当然の関係だった。


 だが、仕事上の関係で顔を合わせざるを得ず、更にその合間にお互いに話をするうちに。

 何時か意気投合して、終には酒を酌み交わしながら、話をする仲になったのだ。


 そして、その際に最大の話のタネになったのが。


「本当にな。「皇軍来訪」が無ければ、世界を探検する夢がまだまだ残っていたよな」

「貴方の話を聞くと、尚更に残念な想いに私も駆られてしまいますね。本当に地球上では探検の余地が急速に狭まってしまった」

「だろう。「皇軍来訪」直前は、それこそやっと地球周航が果たされたばかりといえる時期(いわゆるマゼラン船隊による世界周航は1522年に達成)だったのにな」

「それから100年も経っていないのに、今では南北両極共に人類が立つ事態になりましたからね」 

「後、唯一、人類が生身で立てていないのは、世界最高峰のエヴェレストの山頂かな」

「世界で最も深い海の底に、人類が生身で赴くのは無理がありますから。エヴェレスト山頂が最後の秘境というか、人類が赴ける最後の地でしょうね」

 そんな会話を何度も交わすことに、二人はなっていた。


 実際に二人の会話の内容に間違いは無かった。

「皇軍来訪」以前は、世界の多くが未知の領域と言える状況で、「大航海時代」を迎えていた欧州を中心に世界の探検が熱心に行われていたのだ。


 そうしたことから、例えば、その頃の欧州を中心とする世界では、北極周辺では真夏の間は太陽が沈まない時季がある以上、その時季ならば、(北極)海の氷が解けて、北回り、北極点(の周辺)経由で欧州からアジアに海路で赴ける筈だとして、北回りの北西航路の探検が熱心に行われていた程だったのだ。

(尚、実際には、そんなことは無かったのは言うまでもない)


 だが、徐々に「皇軍来訪」がもたらした知識や技術が広まるにつれ、、具体的な時期としては、日本対スペイン戦争が始まった頃から広まり、更には北米独立戦争が終わった頃には、ほぼ欧州を中心とする世界(尚、日本及びその植民地世界では尚更に)では、地球の全体像が朧気ながら知られるようになった。


 その結果として、欧州からアジアへの北回り航路は存在しないといえること、南極に大陸がある一方で、北極には大陸が存在しないこと等、地球の大よその地形が、日本以外の世界の人々にも知られるようになっていった。


 そうしたことから、世界の探検熱は、(かつてと比較すればだが)徐々に冷めていくことになった。

 

 だが、そうした中でも、日本や北米共和国は、徐々に植民地、領土の拡張を完全に止めようとはしない現実があった。

 特に北米共和国がその点では熱心で、北米大陸を完全に領土にしようと、北への歩みを止めずにいて、更には砕氷船まで開発、建造等することで、北極海にまで勢力圏を伸ばした結果として。


 1899年に北米独立戦争に伴ってイングランドから北米共和国の海軍軍人となって、その後も北極方面の探査を主に任務で行っていたヘンリー・ハドソンらが、犬ぞりを使って北極点に到達する事に成功したのだ。

(尚、この北極点到達は、この成功通信を受けて行われた航空偵察写真でも確認された)

 ここに、人類は史上初めて北極点への到達を成し遂げたのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 史実世界のこの時代、探検家・冒険家の人材には事欠きませんね。 [気になる点] 史実世界のヘンリー・ハドソンさん、最後が悲惨。まあ、この時代の探検家で「畳の上で死ぬ」方が珍しいが、飼い犬に手…
[良い点]  北米共和国が北極点1番乗りだろうとは予想してたけど、日本人じゃなくイングランド帰化人がその栄誉を掴んだのにはちょっとびっくり(´⊙ω⊙`)日本人ガッツが足りねーぞーと軽く嘆く反面『風帆船…
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