第74章―25
島津亀寿副首相兼蔵相としては、来年度、1611年度の予算について、尼子勝久首相や連立を組んでいる吉川広家外相と膝詰め談判を内密にするしかない、と考えざるを得なかった。
実際問題として、衆議院総選挙が終わった直後の予算案は揉めるのが、この当時の日本の恒例と言っても過言では無いのが現実だった。
何故なら総選挙の際に地元の有権者に対して空手形を切りまくるのが、衆議院議員の候補者にしてみれば恒例というか、当然の話だったからだ。
そして、空手形は速やかに現実化、つまり、実際のことにしないと次の総選挙の際に有権者から失望される事態が引き起こされるのが当然だった。
皮肉なことに総選挙で党全体では敗北して野党になった衆議院議員の方が、この予算問題については高みの見物が出来る、と陰では言われるのが現実だった。
だからこそ、与党内の議員の予算の利害調整について、ある程度の方針を固めた上で、周囲にそれとなく方針を漏らして、更に利害調整を行わねばならないのが現実としか、言いようが無かった。
そして、何だかんだ言っても、こうした場合に最も強いのは首相と蔵相、更には連立与党の党首なのは否定できない話で、まずは3人で調整が行われることになったのだ。
「皇太子殿下の御成婚だけでしたら、そう大したことにはなりませんが、それを世界に衛星中継してテレビ放送するとか、本当に幾ら日本が世界で1位の大国とはいえ、国家予算に響く事態です」
島津蔵相は正直に他の二人に訴えた。
「実際にどの程度の影響が出る」
「そうですね。新幹線計画の開始は、再来年以降に完全に見送る必要があるでしょうね」
「それは困る。そちらも日本の国威発揚等の為に必要不可欠だ」
尼子首相と島津蔵相は忌憚のないやり取りをした。
それを横で聞いた吉川外相が口を挟んだ。
「実際の路線計画等は再来年以降ということにして、新幹線についての技術問題を検討するという名目で、技術開発等をまずは行うというのはどうでしょうか」
「その程度でしたら、何とか予算は捻りだせると考えます」
島津蔵相は、取りあえずはそう答えた。
「それで、来年は与党内を糊塗しよう。それにしても、山陽線に並行して最初の新幹線建設は、上手く行くだろうが、その後は本当に頭が痛い事態になりそうだ。東海道線への延伸を、新幹線については検討せざるを得ないだろう」
尼子首相は、内心を吐露した。
「実際問題として、その方が国民、有権者全体に響く新幹線計画になるでしょうね。日本の東西を速やかに結ぶべき、との声が日本国内で高まれば、山陽線の次は東海道線という話が出るのは当然です」
島津蔵相は言った。
「中国保守党としては、少しでも近い出身議員にとって近しい九州新幹線を東海道線より優先すべき、と言いたいですが、その方が世論受けするでしょうな」
吉川外相も、島津蔵相に同意するような言葉を吐いた。
もっともこの言葉の裏には、吉川外相なりの島津蔵相というより島津派への配慮があった。
それこそ「保守合同」の際に、保守党の主に北条派や今川派から蛇蝎のように、中国保守党が嫌われているのを、吉川外相は想い知らされた。
そうしたことから、少しでも保守党内の中国保守党への空気を和らげるために、島津派を中国保守党に対して好意的にしようと吉川外相は考えて、上記のような言葉を吐いたのだ。
そして、この3人の間で、来年度予算の大基本は固まった。
だが、その一方で3人共に考えざるを得なかった。
「皇軍来訪」から70年も経たない内に、皇太子殿下の御成婚式が世界にテレビで流される時代が来ると誰が「皇軍来訪」時に考えることが出来ただろう。
本当に様々な技術の進歩が速過ぎるな。
これで第74章を終えて、次話からこの世界の探検と宇宙開発の現状を描く第75章になります。
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