第74章―24
そんな日本の皇太子殿下の婚約から御成婚に伴う大騒動が日本の国内外で起きたが、その一方で、やるべきことをやらねばならないのも現実で、尼子首相率いる日本政府は来年度の予算案を組まざるを得なかった。
「皇太子殿下の御成婚ということで、様々な費用が宮中から予め要求されていますな」
「これを下手にケチってみろ。世界で1位から3位の大国が協働で行う結婚式を粗略に考えるのか、と世界中から袋叩きに遭うぞ」
「それこそ反応兵器の爆心地に自分が置かれた方がマシな気がしますな」
「どうしてだ」
「痛みも感じずにあの世へ赴けるでしょう」
「確かにな。普通に考えれば、我が国だったら南極送りの事態が、ローマ帝国ならクビが文字通りに飛ぶ事態が起きそうだ」
「ローマ帝国の方が苦しまずに死ねそうで温情がある気さえするのは、私の気のせいでしょうか」
「いや、自分もそう考える」
そんな会話が大蔵省の予算査定を行う主計局内部では、皇太子殿下の御成婚の予算については交わされる事態が起きた。
だが、宮中以外のことでも、皇太子殿下の御成婚については、多額の予算が必要な事態が起きた。
「えっ、皇太子殿下の御成婚式を全世界にテレビ放送するですか」
「そうだ。世界中が驚くだろう」
「流石に時間的、技術的に不可能だと考えますが」
「世界中が協力すれば不可能なことは無い筈だ」
「筈ですか?そのための予算等は」
「特別予算を組む。最悪の場合は予備費をつぎ込む」
そんな会話が、更に大蔵省の主計局内部で交わされることになった。
「確かに人工衛星の進歩は、文字通りに日進月歩で、来年中に人工放送衛星を打ち上げて、太平洋を越えたテレビ放送計画が立案されてはいたが」
「あくまでも試験放送ということで、実際に現実にテレビで流せるようになるのは、再来年の予定と見込まれていた筈だ」
「それを半年以上も短縮しろだと」
宇宙開発を行っている組織内でも大騒動が起きた。
「これは実際に皇太子殿下の御成婚式について、人工衛星を使ったテレビ放送に本番で失敗したら、担当者全員が、南極送りになるか、文字通りにクビが飛ぶかになりかねないぞ」
「文字通りに命懸けの計画になるぞ」
「嫌だ、俺はすぐに辞職、転職する」
「そんなことをしたら、残った者に辞職、転職した者のせいです、と責任を押し付けられるぞ。あの人がおられれば成功したのです、とそんな感じで」
「進むも地獄、退くも地獄とはこのことか」
「成功すれば何の問題も無いが」
「確かにそうだが、失敗したら、自分の命が無い覚悟がいるぞ」
そんな文字通りに水盃を交わすような会話が、宇宙開発の現場では起きることになった。
そういった宇宙開発の現場にまで、この日本の皇太子殿下の婚約から御成婚に至る事態が多大な影響を引き起こすことになったのだ。
実際問題として、皇太子殿下の婚約から御成婚式までならば、日本の国家予算にそんなに負担を掛けずに済む話だったのだが、それが皇太子殿下の御成婚式が、全世界にテレビ中継を行うという話にまで膨れ上がっては、そのために必要な日本の国家予算が、宇宙開発も絡み合って、この1年間だけとはいえ、大蔵省主計局の主な面々が顔色を変える程の額になるのは止むを得ない話だった。
更には宇宙開発の現場にまでも、多大な影響を引き起こすことになった。
だが、そういった多額の予算が、皇太子殿下の御成婚式、及び全世界へのテレビ中継に必要とされたことは、来年度の予算の様々な面について、多大な影響が引き起こされるのは止むを得ないことだった。
「本当に頭が痛い話では済まないわね」
そう島津亀寿副首相兼蔵相が、事務次官や政務次官を相手に直に愚痴らざるを得ない事態が起きた。
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