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第74章―18

「保守合同」成らず。


 しかし、それは勝者と言える筈の労農党にとっても余りにも辛い、苦い勝利になります。

 そんな会話を尼子勝久首相と吉川広家外相が交わしていたのとほぼ同じ頃、伊達政宗と宇喜多秀家も、広橋愛が淹れた珈琲を飲みながら、衆議院会館の政宗の事務所内で密談していた。


「ほぼ「保守合同」は潰れたといえるな」

「あそこまで北条派や今川派が「保守合同」反対に徹し、島津派が非好意的中立になるのは、我々の思い通りに成ったと言えましたが、上杉派までが反対になるとは予想外でした。主流派の一角として、尼子首相を支持して「保守合同」のために動く、と私は考えていたのですが」

「まさか、織田の伯母上が味方してくれるとはな。そのために上杉派まで反対に転じたらしい」

「そう言う事情ですか」

 二人は密談していた。


 ちなみに政宗はいつもと違って塩珈琲を飲んでいる。

 いつもは砂糖を入れた珈琲を政宗は飲むのだが、今日ばかりは塩味を利かせた珈琲を飲みたかった。

 というか、今回のてん末は政宗にしてみれば辛い結末だった。


 上杉景勝の秘書の直江兼続が寄こした長文の手紙が、自分の手元にある。

 後で自分が内容を明かす、と景勝や兼続は考えないのか、と考えたが、それ位、本音としては上杉派にしてみれば、今回の件は無念なのだろう。

 だから、思いのたけを手紙で兼続は自分にぶちまけたのだ。

 更に言えば、景勝の想いでもあるのだろう。


「此度の件、返す返すも無念と主は言っている。本家(である勧修寺流の諸家)から、「保守合同」には反対、よりによって皇太子殿下の婚約公表直前に、このような政治的騒動を起こすとは言語道断。それでも「保守合同」のために動くというのなら、上杉家を本家から絶縁すると言われては云々」

 という言葉から始まる長文の手紙を読み終えた際、思わず自分も泣かざるを得なかった。


「時期が余りにも(「保守合同」には)悪すぎたということでしょうか」

「焦ってしまったのさ。ゆっくりと根回しをして、皇太子殿下の御成婚の後で「保守合同」をすれば、上杉派は「保守合同」に賛成した筈だ。それに北条派や今川派も、ここまで反対を公然と叫ばずに、消極的反対くらいになり、「保守合同」は成っただろう。実際、島津派は非好意的中立で、「保守合同」には腰が重い態度だったからな」

「それなら、何で尼子首相と吉川外相は、そのようにしなかったのでしょう」

「衆議院選挙勝利の勢いから来る高揚感で、「保守合同」を推進すべき、と考えたのだろう。実際に皇太子殿下の婚約が水面下で進んでいなければ、それは成功しただろうな」

「確かにそう言われれば、そうですね」

 二人の会話は、少しずつ重いモノになった。


 二人共に考えざるを得なかった。

 皇太子殿下の婚約は完全に水面下で進んでおり、殆どの衆議院議員は、そろそろ皇太子殿下にも年齢的に縁談が持ち上がってもおかしくない程度の情報しか得ていない。

 既に完全に婚約が調ったともいえる、というのを知っているのは衆議院議員の中でも1割もいない、と自分達も考える。


 だからこそ、衆議院議員選挙の勢いから来る高揚感を活用すれば、「保守合同」は成功する、と尼子首相と吉川外相は考えたのだろうが。

 実際、この辺りは後知恵ならば、何とでもいえる話の気がしないでもない。

 それこそ選挙勝利の勢いに乗じず、じっくりと根回しをして、では。

 却って頭が冷えて、「保守合同」が上手く行かなかった可能性があるのを、自身も否定できない。

 そんなことを、政宗は頭の片隅で考えた。


 だが、その一方、今回の件につき自分たちなりに考えをまとめて、今後のことに生かさねばならないだろう。

 そうとも政宗は考えたし、秀家の考えも同じだった。


「保守党内をそれなりに揺さぶれて、良かったと考えるべきでしょうか」

 秀家が口を開いた。

 この世界では、この直江兼続の手紙が「直江状」として名を遺すことに。


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