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第74章―15

「今のところの状況だけど、保守党と中国保守党の合同、「保守合同」は極めて難航しているようね。尼子首相と吉川外相は前のめりだけど、保守党の非主流派は絶対反対、中国保守党の古参党員も似たような主張をしていて、島津派も「保守合同」には良い顔をしていないみたい」

 状況を自身が整理するためもあって、明け透けに鷹司(上里)美子は、磐子に話した。


「ということは、「保守合同」を推進しているのは」

「吉川外相が率いている中国保守党の若手、後、尼子首相率いる尼子派と上杉景勝率いる上杉派といったところくらいね。吉川外相と尼子首相という双方の党首が、強く主張しているから、何とか「保守合同」の芽が守られているような気がするわ」

 磐子の問いかけに、美子は冷めた答えをした。


「その情報は、どうされますか」

「この情報を、私は誰にも話さない」

「了解しました」

 磐子と美子は阿吽の呼吸で、その件を終わりにした。


 磐子は、その情報を誰かに流すのか、を美子に確認し、美子は沈黙すると言ったのだ。


 実際、それが無難な落としどころだった。

 美子は、この「保守合同」については完全な部外者だ。

 だから、美子が下手に情報を伝えて動いては、動いた結果として、火の粉が自分に飛びかねない以上、全く動かないのが賢明な方策なのだ。


 だが、その一方で、美子は自分なりに密やかに義姉の広橋愛や従兄の伊達政宗に配慮し、又、宮中を護る行動をすることにした。


「「保守合同」について、摂家や清華家の当主の面々に、内侍司を介して、絶対に動かないように示唆するように伝えて。鷹司や九条、二条、久我、三条の五家には私から密かに伝えるけど。衆議院のゴタゴタが、貴族院に飛び火してはかなわないから」

「それは構いませんが、この件で動くことになりませんか」

 美子の思わぬ言葉に、磐子は思わず反問した。


「それこそ皇太子殿下の結婚を密やかに進めているのよ。衆議院内のコップの嵐が、貴族院に飛び火して、更に宮中にまで何らかの形で延焼しては堪らないわ。こんなゴタゴタが起きていては、皇太子殿下の結婚を延期しようとか、今上陛下が言い出しかねない」

「あっ、確かに」

 二人はやり取りをした。


「後、織田(三条)美子伯母様にも、念のために相談しましょう」

「そうですね。それが宜しいでしょう」

 二人は更に話をして、美子は伯母の下を訪ねることになった。


「急に来るとは何事かしら」

「いえ、「保守合同」について、動かない方が良いと自分は考えるのですが、万が一にも宮中に騒動が及んで、皇太子殿下の結婚に影響が出ても困るので、伯母様の考えを念のために伺いたいと」

 織田邸で、伯母と姪は密談をした。


「確かに貴方は動かない方が良いでしょうね」

「ありがとうございます」

「あ、でも、私は動くわよ。「保守合同」は潰させて貰うわ」

「えっ」

 伯母の言葉に、姪は驚愕した。


「何故に」

「夫や異父弟の遺した大事な政党の為に動かない訳には行かないもの」

「どうやって」

「上杉派を切り崩すわ。そうしたら、保守党内の圧倒的多数が「保守合同」に反対になるでしょう」

「確かにそうですが、どうやって」

「上杉家が藤原北家勧修寺流の分家なのを知らないの?」

「知っていますが、どういう関係が」

 姪は伯母に疑問を呈した。


「皇太子殿下が結婚した後、勧修寺流の諸家は宮中女官を速やかに侍らせたい筈よ」

「それは当然でしょうね」

 伯母も姪も尚侍を務めた身なので、そのことは熟知している。

 勧修寺流の諸家は、宮中女官、具体的には典侍を出す家柄で、皇子女の母になった女性も多い。


「だから、皇太子殿下の結婚がごたつくのを、勧修寺流の諸家は嫌がるのよ」

「成程」

 姪には伯母の考えが推測できた。

 言わずもがなのことですが、念のために補足説明します。

 鷹司(上里)美子にとって、摂家の九条家は養父母の家、二条家はおじの家、鷹司家は嫁いだ家になり、清華家の久我家当主の久我通前は同級生の友人で、三条家の元当主代行は義理の伯母の織田(三条)美子という関係になります。

 従って、極めて濃い身内なので、自らが積極的に厳正中立を保つように動くことになりました。


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[良い点] 美子さん一世、動く! 亡き最愛の夫が手塩にかけた労農党を万年野党にする訳には行きません。 [一言] 尼子首相も、吉川外相も、それなり以上の政治家ですが、美子さん一世の相手は荷が重すぎ。 …
[良い点]  表の舞台から引退したにしては『気になる事があれば殴る事を躊躇わない』先代美子さんのパワフルさに( ̄∀ ̄)まだまだこの世界のトップ猛女の座はこの人なのだ、と妙に納得してしまう読者、旦那の信…
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