第74章―7
ともかく1610年の衆議院議員選挙は、日本の二大政党といえる労農党と保守党、それぞれの党内部でも細かい意見が、特に新幹線建設計画については分かれる事態を引き起こしていた。
だから、各党内部の議員の意見も分かれた上での選挙戦という事態を引き起こすことになったのだ。
それはともかく、と言っては何だが。
伊達政宗個人の衆議院議員選挙は、それなり以上に陸前県内では上手く行くことになった。
何とも皮肉なことに、広橋愛の人当たりの良さが発揮されてしまった、としか言いようが無かった。
「どうか、伊達政宗への投票をよろしくお願いします」
「貴方が広橋愛さんですか」
「はい」
「うん。見ると聞くでは大違い、と言いますが、貴方から言われては」
「はあ?」
「悦んで政宗殿に家族全員が投票しましょう」
そんなやり取りが、広橋愛が戸別訪問した後で多発することになった。
勿論、実際に家族全員が伊達政宗に投票する事態が全面的に起きた訳ではないが。
広橋愛の人当たりの良さは、それこそ生まれ持ってきたモノとしか言いようが無いものだった。
更に言えば、本来ならば敵になる上里清の正妻の広橋(上里)理子さえ広橋愛に魅了される程だった。
又、島津亀寿ら、伊達政宗の宿敵になる衆議院議員の面々さえ、広橋愛に好感を抱く程だった。
そういった魅力を広橋愛が活かした結果、伊達政宗本人は、労農党党首として労農党の衆議院議員候補者支援の為に日本国中を駆け回る羽目になり、ろくに自らの選挙区で選挙活動が出来なかったのだが。
「本当に広橋愛さんのお陰ね。私よりも票を稼いでいる気がするわ」
「そんなことは無いと思いますが」
「謙遜することは無いわ。国分盛重まで言っているもの、正直に言って、広橋愛の方が貴方よりも票を集めている気がしてなりません、とね」
全く嫌味ナシに伊達愛子は、衆議院議員選挙終了間際に広橋愛にいう事態までが起きた。
実際に伊達愛子の言葉に間違いは無かった。
「万歳、万歳」
「いやあ、陸前県において伊達政宗の人気は盤石ですな」
「本当に有権者の皆様から、ここまでの支持を得られたことについて、心から感謝します」
伊達政宗は、今回の衆議院議員選挙の開票速報に際して、そう新聞記者らに答える事態が起きていた。
それこそ政宗自身が覚悟していたのだが、労農党党首として日本中を政宗が駆け回った結果、ろくに選挙区を政宗は回れない事態が起きており、票が減るのは確実と開票前は見られていたのだ。
だが、実際に投票箱を開いてみると、政宗は過去最高の得票率でトップ当選を果たしていた。
その原因だが。
「伊達愛子様に加え、広橋愛にまで頭を下げられては」
「あれ程に好感を持てる女性に言われたら、喜んで一票を投じます」
そんな感じで広橋愛は、女性有権者を魅了していて、政宗への女性票を大量に集めていたのだ。
この辺りは、それこそ多くの政治評論家にとって謎とされる話ではあったが。
敢えて、これが原因ではという多数派の推測を述べるならば。
「広橋愛ですが、本当に良い性格で、謙譲の美徳を持っている気がします」
「謙譲の美徳ですか」
「ええ、身を弁えているというか。ともかく同情してしまいます」
「確かに実子が義妹になり、他人の子を養子に迎えているとか。元は外国人の奴隷だったとか。でも、今ではそんな過去を感じさせない明るさを、広橋愛は持っていますね」
「だから、広橋愛に頭を下げて頼まれると、この人に頼まれたら、協力しようという気が嫌味ナシに起きるのです」
「成程、何となく分かる気がします」
そんな感じの報道が為されて、周囲を納得させることになった。
この辺りの真実は不明だが、政宗は無事にトップ当選を果たせたのだ。
真実を言えば、悪名は無名に勝るのです。
見知らぬ人よりも、悪名でもそれなりに著名人に声を掛けられては。
更に、その著名人が好感が持てる人であっては。
反動から広橋愛は好感を得て、集票効果を挙げることに。
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