第73章―22
「その辺りが無難なところだろうな」
藤堂高虎の上奏に対してエウドキヤ女帝は言葉を返し、その後も他の閣僚を交えた話し合いが行われた上でのことになるが、その方向でローマ帝国は動くことになった。
そして、このユーラシア大陸を東西に横断する大鉄道建設という日本からの提案にローマ帝国が応じたことは、欧州を始めとする世界各国に大きな衝撃を与えた。
「余りにも壮大な夢、だが、何としても現実にしたいモノよ」
例えば、フランスのアンリ4世は、この話を聞いたとき、そう廷臣達に言った。
「60歳近い朕では、パリから東京まで列車での旅を成し遂げることは出来まいが、息子のルイ(13世)ならば、列車で旅することが可能だろう。息子がそうできるように、我が国は積極的に協力しようではないか。それに其方達も、その列車に乗ってみたいと思わぬか」
「確かに」
アンリ4世と同様に、壮大な夢に魅せられた多くの廷臣がその言葉に同意した。
又、ポルトガルのカタリナ女王に至っては、次のような言葉を廷臣に語り掛けた。
「我が国の(ユーラシア大陸内でも)再西端のロカ岬からユーラシア大陸の東端までが、一本の鉄道でつながるとは、何とも壮大な夢。孫のジョアン(史実ではポルトガル王ジョアン4世)が、その鉄道に乗って、日本までの旅ができるように努めましょう」
「女王陛下の仰せのままに」
その言葉を聞いた廷臣達の多くが即答し、涙を流す者まで中にはいた。
似たような会話を、時のドイツ皇帝であるルドルフ2世やスペインのフェリペ3世も交わした。
その一方、このユーラシア大陸を東西に横断する大鉄道建設について、大いなる投資の場であるとして興味を抱いたのが、北米共和国だった。
「これは何とも大いなる投資を行うべきではないか」
「仰る通りですな。積極的に借款を行い、又、必要な様々な物資の売り込みを図るべきでしょう」
この問題についての徳川秀忠大統領の問いかけに対して、大久保忠隣首相は即答と言って良い態度を示すことになった。
「流石に日本が関与する部分については、日本政府が自国の利益確保もあって関与を拒むでしょうが、特に欧州諸国にしてみれば、資金から物資調達等々、文字通りに国を傾ける大事業になるのは必定であると私は考えます」
「全く以てその通りだろう」
大久保首相の言葉に、徳川秀忠大統領は満更でもない態度を示しながら言った。
「そして、借款返済が滞った場合は、敷設した鉄道を担保として接収することにすれば、更に鉄道経営の利益を借款返済に充てることにすれば、我が国にしてみれば利益のみを得られる事態といえます」
「その通り。よく分かっておるではないか」
大久保首相の更なる言葉は、徳川秀忠大統領をより満足させた。
「ですが、この大事業の裏では、宗教対立の臭いがしてなりません。それについては、どう対処されるおつもりですか」
「そのことよ」
大久保首相の少し声を潜めた問いかけに、徳川秀忠大統領も少し声を潜めた答えをした。
北米共和国政府は決して無能ではない。
日本政府が、このような大事業を提起した裏につき、何となく察している。
そして、最悪の事態が起きた場合、世界大戦が起きかねないことも。
「表向きは素知らぬ顔をするが。反応兵器や化学兵器、生物兵器に関する規制を日本政府は訴えるようになるだろう。それに我が政府も賛同する方向で動かねばなるまい」
「確かに人類が滅びるような大戦が起きては堪りませぬからな」
徳川秀忠大統領の言葉は、大久保首相も肯かざるを得ないものだった。
「とはいえ、それは全ての国が受け入れるのなら、というのが前提だ。その一線は崩さぬ」
「それが妥当でしょう」
そう二人は話して決めた。
ご感想等をお待ちしています。




