第73章―21
「ふむ」
「我が帝国の諜報網の下には、チャハル部のリンダン・フトゥクト・ハーンがモンゴルの再統一、更には中央アジア方面のトルコ系諸民族までもの大統合を図っているのでは、との情報が入手されております。その背景には、後金や日本、更にはオスマン帝国の影がちらついております」
エウドキヤ女帝に対して、藤堂高虎はそう上奏した。
「何故にそのような事態が」
「言うまでも無く、我が帝国がシベリアへ侵出しているからです。更に言えば、我が帝国はオスマン帝国やクリミア・ハン国と戦争を行い、オスマン帝国から欧州やエジプト、パレスチナ等を奪い、クリミア・ハン国をクリミア半島に逼塞させました。このことは、イスラム教徒、特にスンニ派の怒りを買っており、対キリスト教徒戦争は聖戦である、との声を多くのイスラム教徒に引き起こしています。更に言えば、我がローマ帝国は無関与ですが、かつて、セイロン島やインド亜大陸において、ポルトガルの支援を得たカトリック教会の宣教師は、仏教徒やヒンドゥー教徒を迫害しました。現地ではその恨みが未だに遺っており、セイロン島のポロンナルワが、現在では仏教やヒンドゥー教の聖地に近い存在になっていることから、その恨みが世界に伝わっており、そのために世界の仏教徒やヒンドゥー教徒の間で、キリスト教徒を警戒する者が増えています」
女帝の下問に対し、藤堂高虎は、まずは長めの宗教的背景説明を行った。
「全く厄介なことよ。我が国は全く無関係なのに」
「全くです。エルサレムを宗教和解の地として、我が帝国は積極的に庇護しており、それにオスマン帝国も協調していることから、完全な破局は避けられていますが、そうは言っても、我が帝国が東西教会を合同させて、「全キリスト教徒の守護者」となっていることから、世界中の多くのイスラム教徒や仏教徒、ヒンドゥー教徒から我が帝国は警戒されています」
「それで、ユーラシア大陸を東西に横断する大鉄道について、どのように我が帝国が対処するのが良いと大宰相は考えるのだ」
「我が帝国は強大ですが、日本及びその同盟国の国力には、とても同盟国と力を合わせてもとても勝てないのが現実。とはいえ、先程の宗教の事情から、我が帝国と日本が完全に手を組むのは困難で、微妙な関係を続けざるを得ません。そういった事情も有って、日本とは北米共和国等とも連携して、共に宇宙開発を行う等、友好関係をそれなりに世界に対して我が帝国は宣伝しております」
「ふむ、確かにその通り」
「ユーラシア大陸を東西に横断する大鉄道は、我が帝国を大いに潤すものですが、それは同時にいざという時には、日本及びその同盟国の補給路等として活躍するモノでもあります。そういったモノの建設に日本を積極的に関わらせることは、我が帝国の安全保障上は極めて悩ましい。しかし、だからといって、日本を敵視して、我が帝国だけで帝国内の鉄道を敷設するというのは、我が帝国の財政を大いに傾けることになります。唯でさえ、モスクワを「五海の港」にすべく、大運河の建設を我が帝国は行っており、財政担当者は頭を痛める事態が起きているのです」
「確かにな。北米共和国に援けを求めるべきやもしれぬが、それはそれで、我が帝国の足下を見られる事態を引き起こしかねぬ」
「その通りです」
言葉を積み重ねる内に、エウドキヤ女帝と藤堂高虎の話は深みに入った。
「私としては、ユーラシア大陸を東西に横断する大鉄道建設について、他の国々も巻き込んで、世界共同事業という体を装うことで、日本の提案に乗るのが相当と考えます。それによって日本のみならず世界との友好を宣伝するのです」
藤堂高虎はそう上奏した。
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