第73章―20
さて、この尼子勝久首相のユーラシア大陸を東西に横断する大鉄道建設の提案は、世界中に大きな波紋を引き起こすことになった。
「何とも壮大な夢ですな」
このユーラシア大陸を東西に横断する大鉄道計画を聞いたローマ帝国の藤堂高虎大宰相は、そうエウドキヤ女帝に対して奏上することになった。
「壮大な夢か。現実にはできぬ、というのか」
エウドキヤ女帝は、大宰相の言葉を揶揄するような言葉を吐いた。
「いえいえ、現実に出来る夢です。ですが、余りにも壮大過ぎて、夢にしか思えませぬ。考えてみて下さい。もし、これが現実になれば、欧州の西の果ての国といえるポルトガルの国王陛下が列車に乗ったままで、日本の天皇陛下に会いに赴くことが事実上は可能になるのです」
「何、そうなのか」
「ええ。日本の下関(赤間関)と釜山を、日本は鉄道連絡船で接続するつもりだとか。言わずもがなのことではありますが、我がローマ帝国内でも徐々に鉄道の敷設が、国営のみならず、地方自治体による公営や、文字通りの民営、臣民による自発的な出資によって進んでいる現実があります。更に海峡や大河川によって隔てられている部分については、鉄道連絡船を運航することによって、鉄道を接続しようとしている現実があります。それらまでも考えあわせれば、決して夢物語の話ではありませぬ」
そう藤堂高虎は、エウドキヤ女帝からの下問に対する答えをした。
「ふむ。何とも壮大かつ現実的な夢のようだな」
「御意」
「では、我が国はどう行動すべきと考える」
「それについてですが、まずは日本をどう考えるのか。我々の敵国として考えるのか、それとも我々の味方に引き込もうとして考えて、行動するのか、それによって、我々の行動は変わってきます」
エウドキヤ女帝からの更なる下問に対して、藤堂高虎は韜晦するような答えを返した。
その答えは、エウドキヤ女帝を苛つかせることになった。
エウドキヤ女帝は、明確な答えを臣下に求める性質である。
それを知っている藤堂高虎が、そのような答えをするとは。
それこそ約10歳のときに、モスクワからエジプトにローマ帝国継承の有資格者として拉致され、その後は事実上は天涯孤独の身になって、当時のエジプトにいた日本人によって、将来のローマ皇帝としての教育等を施されたのが、エウドキヤ女帝である。
(細かいことを言えば、その時にエウドキヤ女帝の姉のアンナ皇女も一緒に拉致されたのだが。
前田慶次との恋に落ちたアンナは、皇女の身分を弊履のように捨て去り、前田慶次の妻になって、表向きは死んだ身になったのだ。
尚、エウドキヤ女帝としては、姉のアンナが恋に落ちて皇女の身分を捨てた結果、自分が女帝になったことについて、色々と言いたいことが堪ってはいるのだが。
アンナが幸せな生活を送っているのを、自らも見聞きしていることから。
本当に恋は不治の病ということ、と内心で捨て台詞を吐く等して、無理にエウドキヤ女帝はこの件を割り切っていた)
そして、この当時にエジプトにいた日本人の多くが専制君主制こそ正義と考えており、そういった面々からの教育を受けたエウドキヤ女帝が、専制君主制こそ正義と感がるのは当然だった。
更に言えば、エウドキヤ女帝はイヴァン雷帝の末娘であり、イヴァン雷帝譲りの激しい気性の持ち主でもあったのだ。
だから、エウドキヤ女帝は怒りを秘めた言葉を、藤堂高虎に浴びせた。
「日本からの提案について、明確に自らの意見を申せ」
「私自身としては、日本からの提案に賛同すべき、と考えております。ですが、単に賛同するのが正解か否か、誠に悩ましいとも考えております」
藤堂高虎は、エウドキヤ女帝に対して上奏することになった。
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