第73章―19
「そういった状況にあることが、世界に広まっているから、北米共和国を中心にして世界中に新マンダ教が広まっているのだろうな」
「そうかもしれませんが、新マンダ教が世界に広まっていることは、所詮は宗教の世界です。我々というか、日本政府としては、宗教絡みの世界大戦が起きないように、何としても努める必要があります」
「確かにな。我々は現実の話をせねばならない」
尼子勝久首相と吉川広家外相は、改めて現実と向き合った。
「まず、日本としては、原水爆といった反応兵器や毒ガス等の化学兵器、細菌等の生物兵器について、世界中で研究は認めるが、兵器としては世界各国が保有はしない、という方向で動くべきだろうな」
「確かに人類が争った末に、この地球上から生きとし生けるモノ全てが死に絶えてはなりません」
「北米共和国やローマ帝国、それからオスマン帝国等の世界各国に、そういった条約締結への参加を呼びかけるべきだろう」
「でも、北米共和国やローマ帝国が応じますかね」
二人の話は続いた。
「中々応じないだろうな。全面保有禁止とはいうが、研究という名目で実際には保有するのでは、という疑惑が、それこそ日本を含む世界中の国である以上、全面保有禁止には応じられないだろう」
「私もそう考えます」
「それに反応兵器ならまだしも、化学兵器や生物兵器は、民間の化学工場や医学研究所等を活用することで容易に転換、調達が可能だ。そういった点でも難儀だ」
「確かに」
「だが、少なくともそういった兵器に規制を掛けるべきだという程度なら、北米共和国やローマ帝国も応じるだろう。それこそ軍拡を抑止すべきというのは、多くの国で正論だからな」
「全くです。島津亀寿副首相兼蔵相が平時の財政均衡の観点から、しばしばそう訴えています」
そして、島津副首相の名が出たことで、尼子首相は少し顔色を改めて言った。
「その一方で、もう少しローマ帝国に宥和姿勢を、我が国は示すとするか。島津副首相が、金が掛かり過ぎるとして怒りそうだが」
「何をお考えですか」
「ペトロパブロフスク=カムチャッキーの開発を黙認すると共に、ユーラシア大陸を東西に横断する大鉄道を建設するのはどうか、と考えたのだ」
「成程、釜山を起点に朝鮮半島から満洲へ、更にシベリアの大地を抜けてモスクワへ、更にワルシャワからパリ、マドリードからリスボンまでつながる大鉄道を造ってはどうか、と」
「勿論、モスクワより西の部分については、各国に任せることになるが、釜山からバイカル湖周辺までは日本の金で、バイカル湖周辺からモスクワまでは日本とローマが協働で、という辺りでどうかな」
「それは又、遠大な話ですな」
尼子首相と吉川外相の話は、更に進んだ。
「今、この世界は戦争の路を歩むか、平和の路を歩むか、それこそ泥酔者が懸命に真っ直ぐに歩もうとしながらも、真っ直ぐにどうにも歩けず、千鳥足で進むような状況にある。そうした中で、後金とチャハル部の連携が、満洲から中央アジアに至るまでのモンゴル、トルコ系諸民族、チベット仏教やイスラム教スンニ派の大連携にまで広がっては、ローマ帝国に対する挑発行為に完全になりかねない。そういった挑発行為を、少なくとも日本は積極的に行うつもりは無い。それを示す為に、ユーラシア大陸を東西に横断する大鉄道の建設を、ローマ帝国等と日本が協調して行うのは悪く無いだろう」
「確かにその通りです」
尼子首相の言葉に、吉川外相は同意した。
「取り敢えず、この話をローマ帝国等の諸外国に振ってみてくれ。尚、後金には対ローマ帝国戦争に備えてのモノと欺まんするように」
「確かにそうすべきでしょう」
尼子首相の指示に、吉川外相は同意した。
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