第73章―18
そういったことが1608年中に起きて、ヌルハチ率いる後金国とリンダン・フトゥクト・ハーン率いるチャハル部の提携までもなったことから、万里の長城以北から明帝国の勢力は、ほぼ姿を消すことになった。
そうしたことが満州を中心にして起こった一方、尼子勝久首相率いる日本政府にしても、ヌルハチ率いる後金国とリンダン・フトゥクト・ハーン率いるチャハル部の提携が成ったこと、更にチャハル部がモンゴル諸部の再統一から、中央アジアに住むイスラム教スンニ派信徒のトルコ系諸民族との対ローマ帝国戦争を見据えた連携までも考えて動き出したという事態に対して、それなりの様々な手を国際的に打つ必要を、上里清の報告等もあって考えざるを得なくなった。
「厄介なことになった」
そう上里清の報告を受けた尼子首相は、吉川広家外相に対して述べざるを得なくなった。
「全くですな。オスマン帝国にしてみれば、これは極めて有難い事態です。止むを得ないとオスマン帝国政府最上層部は割り切っていましたが、オスマン帝国の民衆、及びオスマン帝国外のイスラム教スンニ派信徒の多くが、クリミア・ハン国に対するローマ帝国の侵攻に怒りを溜め込んでいました。何故にオスマン帝国は、クリミア・ハン国に対する全面支援を行わないのか、何だったら、ボスポラス海峡を封鎖し、対ローマ帝国戦争に踏み切るべきだ、という意見まで噴出する有様でした」
「そんな意見にオスマン帝国政府が煽られていたら、日本は厄介なことになっていたな」
「最悪の場合、世界大戦ですな。宗教が絡んでいる以上、それこそお互いに十字軍と聖戦を叫び合い、相手の宗教の信徒が根絶するまで終わらない世界最終戦争です。しかも、原水爆といった反応兵器や毒ガスといった化学兵器、更には細菌等を使った生物兵器の使用さえ、異教徒を根絶するという大義名分がある以上、交戦国双方が使用を全く躊躇しないという悪夢の世界大戦です。最初は共に躊躇うかもしれませんが、一方が使用したら、他方も報復として使用し、後は悪夢の連鎖が起きるでしょう」
「そんな悪夢の世界大戦を遂行するのが、日本では首相である儂か。そんな事態が起きたら、本当に世界中から人類どころか、この世の生きとし生けるモノ全てが死に絶えるだろうな。恐らく儂は無間地獄に落ちるな」
「無間地獄で済めばよい事態ですな。私も無間地獄以上の地獄に落ちそうだ」
尼子首相と吉川外相の話は更に進んだ。
「改めて考えるよ。最近、北米共和国を中心に新マンダ教が正しい教えとして、世界に広まりつつあるのは必然のような気がしてならない」
「新マンダ教ですか」
「ああ、故郷では全く信徒がいなくなった、とオスマン帝国が公式に言明しているのに、結果的に世界に広まってしまった」
「何とも皮肉なことですな」
尼子首相と吉川外相は思わず別のことにまで、想いが及んでしまった。
「この世を造ったのは神ではない造物主だ、と新マンダ教徒は説くそうだな」
「神ではない造物主が、この世界を造っただと。この世界を悪魔が造ったというのか、とその一点だけはキリスト教徒も、イスラム教徒も、それからユダヤ教徒といった一神教徒は一点共闘して、新マンダ教徒を非難するようですな」
尼子首相の問いかけに、吉川外相は即答した。
「だが、ここまでの力、この世の生きとし生けるモノ全てが死に絶えかねない力を、我々、人類に与えるとは。本当に一神教の神ではなく、造物主がこの世を造ったように私は考えられてならない」
「何とも神学的、哲学的な命題の気がしますな。でも、私もそんな気が最近はしてなりません」
尼子首相と吉川外相は深遠な会話を思わず交わさざるを得なかった。
この世界では、マンダ教は北米共和国に中心を移す事態が起きており、更に信仰内容がかなり変わっているし、世界宗教になりつつあることも相まってそれを暗に示す必要性から、便宜上は作中では新マンダ教と呼称しています。
(本来的には、単にマンダ教と尼子首相らも呼称するのが当然なのです)
そういった事情から、新マンダ教と呼称しているという事で、平にお願いします。
ご感想等をお待ちしています。




