表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1488/1800

第73章―13

 ヌルハチと上里清の会話は続いた。


「この際、同じ仏教徒として共に仲良く手を組もうではないか。その証として、ポロンナルワでチベット仏教の僧侶が修行や研究をするのに、日本までも交えて積極的な便宜を図りましょう。そう私はリンダン・フトゥクト・ハーンに訴えるつもりです」

「ほう、リンダン・フトゥクト・ハーンは熱心なチベット仏教徒と聞いている。その話に乗ってくる可能性は高いな」

「ええ、それにモンゴル全体にローマ帝国の探査隊がたどり着くようになっており、モンゴル全体がキリスト教徒のローマ帝国に対して警戒の色を濃くしているとか、こういった事情も考えあわせれば」

「確かにキリスト教徒の脅威に対して、仏教徒全体が協力すべき、というのは分かり易い話だ」


 更にヌルハチは、悪い笑みを浮かべながら、上里清に言った。

「そして、日本はオスマン帝国とは長年に亘る友誼がある。さて、オスマン帝国の軍事指導に一時は当たられ、カリフから女奴隷等まで下賜されたのは何方でしたかな」

「やれやれ、中央アジアのイスラム教スンニ派信徒のモンゴル系やトルコ系の遊牧民族とも、日本やオスマン帝国を介して、更に手を組んで、ローマ帝国と戦えるぞと暗に誘う訳か」

「貴方ならできる、とリンダン・フトゥクト・ハーンは勝手に想像してくれるでしょう」


 二人のやり取りは黒い方面に流れたが、上里清は何とも言えない考えがしてならなかった。


 確かに自分の現在は義理の娘になっている広橋愛は、元をただせばアーイシャ・アンマールという名のオスマン帝国のカリフに仕えていた奴隷であり、自分に下賜された女性である。

 更に広橋愛が産んだ上里美子は、自分の妹夫婦である九条兼孝夫妻の養女になって、鷹司信尚の正妻になり、今では宮中女官長である尚侍として、今上陛下の傍に仕えている。


 だから、自分がヌルハチとリンダン・フトゥクト・ハーンとの会談の場に立ち会えば、リンダン・フトゥクト・ハーンは、勝手にこの講和の会談の裏には日本がいる、更にはイスラム教徒と手を組んで、キリスト教徒のローマ帝国と対抗できる、と誤解してくれる可能性が高いという訳か。


 恐らくヌルハチは、様々な伝手を悪用して、自分に関する噂を垂れ流しているだろう。

 そして、そのほとんどが事実と言って良い。

 だから、リンダン・フトゥクト・ハーンが、噂の裏を確認しようとすればする程、その噂が真実であると確信することになる。


 更に言えば、自分は会談の場でずっと黙っているだけで良いだろう。

 ヌルハチは頭が切れる男だ、私が黙っているだけで、そうリンダン・フトゥクト・ハーンが誤解する方向に会談の内容を進める筈だ。

 そして、後金側も、チャハル部側も、それなりの数の面々が会談の場にいる以上は、ずっと自分が黙っていただけなのを後で認めざるを得ない。

 自分が単に黙って見守っていたのがダメというのは、かなり難しいのは自明の理だ。


 となると、自分は敢えて黙らずに積極的に日本は関与していない、とヌルハチとリンダン・フトゥクト・ハーンの会談の場で訴えるべきなのだろうか。

 だが、それはそれで、色々と不味い話になりそうだな。


 すっかり衆議院議員の秘書らしくなった広橋愛どころか、尚侍を務める鷹司(上里)美子にさえ、

「お父さんは何を考えているの。こういうときは黙っておくのが当然よ」

とたしなめるというよりも、叱られそうな話になりそうだ。


 それに尼子勝久首相以下、日本政府も認める話だろう。


 上里清は、それなりに頭が回ることもあってそこまで考えた末。

 ヌルハチとリンダン・フトゥクト・ハーンの会談の場に、自分は同席するものの。

 その会談の場では、ずっと黙っておくことに決めた。

 ご感想等をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  ヌルハチさん流石はこの時期の東アジア最高の傑物、あっさりと最強国家日本をバックにしその威を最大限活かそうとたくらんでますな(・Д・)その上で清さんの思惑も飲み込みさらにアジア全体を巻き込…
[良い点] 上里清さん、だんまり予定。 周囲が勝手に「徳のある大人」と思ってくれそうで吉。 ヌルハチさん、流石に蓋世の英雄、視野と構想が広い。 事実に微妙に嘘を混ぜる。解析・分析能力のある人ほど騙…
[良い点] 上里清さんの立ち会いのもと、和平協議。 [気になる点] モンゴルの地理を改めて見てきましたが、水源となる河川が少なすぎ、草原地帯を無理に耕作すると砂漠化の進行の恐れあり、人口が少ない等、問…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ