第73章―7
だが、後金国軍の侵攻作戦に対応して、江華島へ逃げ込もうとした朝鮮の王室及び軍隊の前には、日本の1隻の戦艦が立ち塞がることになった。
村上(来島)通総少将は、戦艦「大和」に座上し、江華島沖合を遊弋して、沿岸部を威圧していた。
結果的に事後報告になっていたが、後金国は朝鮮国内の女真族迫害は、とても座視できない段階に達しているとして、朝鮮国内の女真族救援を大義名分として、朝鮮への侵攻作戦を発動したのだ。
これを尼子勝久首相率いる日本政府は、基本方針として押し止めようとはしたが、現実問題として朝鮮国内における女真族への迫害は、それこそ日本国民の多くが、後金国が日本の同盟国であることも相まって後金国に全面的に味方すべし、何だったら、日本も参戦すべき、との意見を述べる有様になっている。
(これは、予てから日本と朝鮮が、事実上は交戦状態にあったというのも大きい)
そうした日本の国内世論との兼ね合いから、尼子首相は、大義名分上は、朝鮮が日本を後金国の同盟国として攻撃してくる危険を避けるためとして、日本海軍に対して、日本の沿岸部及び後金国との通商路保護のために艦隊の出撃を命じたのだ。
更にその艦隊出撃の一環として、何かあれば日本は朝鮮の首都攻撃も辞さない、との警告の意味で、戦艦大和が単艦で江華島沖合に赴くことになり、村上通総少将がその指揮を執ることになったのだ。
「朝鮮海軍は出撃してこないか」
わざわざ自ら声を出さなくとも、何かあれば見張り員やレーダー(電探)担当者から、報告が上がってくるのだが、時折、村上少将としては声を出さざるを得ない。
村上少将に言わせれば、こんなことをしては、完全に朝鮮政府に対する更なる挑発行為に他ならず、日本側から参戦するようなモノになってしまう。
だが、日本と朝鮮のこれまでの関係、更には、現在の日本の世論からすれば、尼子首相から日本海軍に対して、このような行動を執るように命じるのも、理性では村上少将は分かってしまう。
とはいえ、感情的にこんな行動はどうなのか、と村上少将は考えてもしまう。
そうした理性と感情の狭間もあって、村上少将は時折、声を挙げる事態が起きていた。
そして、朝鮮海軍も、戦艦大和の行動を黙認できない、と判断したようで、夜陰に乗じての奇襲を試みる事態が引き起こされた。
だが、それは蟷螂の斧に等しい話だった。
「対水上電探に反応アリ、木造船51隻が、散開した上で本艦に接近中」
「流石だな。51隻という細かい数まで分かるか」
「最新式の(マイクロ波)電探ですから、ここまで分かって当然です」
「いや、電探担当者の訓練等の賜物だ」
「お褒め頂き、ありがとうございます」
電探担当者の報告を受け、村上少将は少し考えた。
木造船である以上、46サンチ主砲は過剰威力もよいところだ。
対空用の40ミリ機関砲を、木造船攻撃に使うか。
対空用であって、対艦用ではないので、機関砲操作員の手動で木造船を攻撃せざるを得ないが、所詮はガレー船なり、帆船なりなのだ。
40ミリ機関砲で射撃すれば十分だろう。
それでも接近して来る船があれば、20ミリ機関砲で更に迎撃するか。
場合によっては、12,7サンチ両用砲も使用してもよいかもしれぬな。
もっとも木造船相手では、12,7センチ両用砲でさえも過剰な威力になるがな。
村上少将は、そこまで考えた末、戦艦大和から500メートル以内に朝鮮海軍の木造船が接近次第、40ミリ機関砲で木造船を攻撃するように命じることになった。
一方、朝鮮海軍の軍艦、木造船に乗っていた朝鮮海軍の将兵は決死の覚悟で大和に接近していた。
せめて、一太刀報いられれば、そう彼らは覚悟を固めていたのだ。
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