第72章―27
日本の皇太子殿下と、ローマ帝国のエウドキヤ女帝の養女にして北米共和国の現大統領の娘である徳川千江の縁談を正式のモノとするとなると、日本国内でもそれなりでは済まない根回し等が必要になるのは当然のことである。
だから、日本本国に鷹司(上里)美子が帰国した翌日、内大臣の鷹司信房の呼びかけで、近衛前久邸に全ての五摂家の当主と、鷹司美子は緊急に集うことになった。
尚、この集まった当初の時点において、この時の五摂家の当主、近衛信尹や一条内基は、この皇太子殿下の縁談については全く知らなかった。
更に言えば、九条兼孝や二条昭実にしても、まさか鷹司美子が、これ程に大きく皇太子殿下の婚約をまとめているとは全く考えてもいなかった。
そして、自邸ということもあって、五摂家の最長老の近衛前久も加わった上で、この場に集った7人の話し合いが始まることになったが。
「一体、何事が起きたというのだ。急に五摂家の当主を全て集めるとは。幾らお前が内大臣とはいえ、もう少し時間の余裕を持たせて、こういった呼び集めは行うべきだ」
この場にいる近衛前久に次ぐ年長者の一条内基が、鷹司信房をまずは開口一番に叱責した。
「はい、緊急に集まる必要が生じた理由ですが、(息子の)嫁の美子に説明させます」
鷹司信房は、一条内基の剣幕に恐れをなしたこともあり、美子に説明を丸投げした。
美子は内心で想った。
本当に我が義父ながら情けない。
義理の伯母の織田(三条)美子やエウドキヤ女帝に比べれば、一条内基等は小者もいいとこなのに。
とはいえ、家格というモノがある以上、美子は内心にその想いを押し込めて説明を始めた。
「ローマ帝国のエウドキヤ女帝から申し入れがありました。義理の姪で、北米共和国の大統領である徳川秀忠殿の次女になる千江を、自分の養女にした上で、日本の皇太子殿下と結婚させたいとのことです。尚、この縁談については、オスマン帝国も賛成し、又、私の身内である武田家も反対しないとのこと。この縁談について、五摂家の当主の皆様の御意見を伺いたいと考えます」
美子の言葉が終わった瞬間、
「げえっ」
「何」
そんな叫び声が、美子と鷹司信房、近衛前久以外の4人から相次いで挙がった。
さしもの二条昭実元首相でさえも、絶句せざるを得ない事態だった。
それこそ世界の二位、三位の大国からの縁談申入れである。
更にオスマン帝国や武田家も反対しないとは。
完全に断ることが出来ない縁談と言っても過言では無い。
家格云々にしても文句のつけようがない。
それこそ養女とはいえど、ローマ帝国の皇女殿下になるのだ。
これでは家格が不足等と口が裂けても言えない姫君が、皇太子殿下の相手ということになる。
その一方、沈黙を保っていた近衛前久は、内心での苦笑いを止められなかった。
「流石は上里美子の名を承け継ぐ者よ。皇太子も、この縁談を断ることはできぬ。皇太子の自らへの邪恋を退けるために、尚侍が世界を周りに行ったという怪しい噂を聞いてはいたが。ここまでのことを成し遂げて帰国するとは。九尾の狐はこの世に2匹もいたようだ」
そんな埒も無い考えまでが、近衛前久の内心で浮かんでならなかった。
そして、自らの息子の信尹が落ち着く前に、近衛前久は口を開いた。
「これ程に素晴らしい縁談が起きるとは、この縁談は何としても成功させねばなるまい」
「「確かに」」
五摂家最長老の近衛前久が前向きな言葉を言っては、他の四摂家も反対しづらい。
更に考えれば考える程、この縁談を断るのは、それこそ世界のためにならないのだ。
「尚侍、この件を速やかに今上陛下等に勧めるように」
「分かりました」
美子は五摂家をこの縁談の後ろ盾にすることに成功した。
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