第72章―24
文中にホットラインという単語が出ています。
本来ならば直通電話連絡線とか、表記すべきだと私も考えますが、それだと何だかそれっぽくないので、小説上の分かりやすさ優先ということで、ホットラインと書きました。
どうか、緩く見て下さい。
尚、感想欄で指摘されたので、補足しますが、このホットラインは、この世界の主要国間では結ばれており、例えば、ローマ帝国は、日本、北米共和国、オスマン帝国と結んでいます。
この話中では、ローマ帝国はオスマン帝国とのホットラインを使っています。
上里勝利の私邸内の一室で、上里勝利を立会人として、改めて藤堂高虎と鷹司(上里)美子の会話が交わされることになった。
「この後は、どうなされるおつもりですか」
「オスマン帝国との間にホットラインはありませんか」
「当然、ありますが」
二人はやり取りをした。
ホットライン、主要国の最上層部が直に緊急の連絡を取れるようにした代物である。
あくまでも緊急事態用であり、普段は使われないのが原則ではある。
「それを使って、私がオスマン帝国のカリフを訪ねたい旨の連絡をしていただけませんか」
「ひょっとして、オスマン帝国にも事情を自ら説明しておくつもりですか」
「その通りです。日本は立憲君主制で、今上陛下は政治に全く関与しないのが大原則ですが、オスマン帝国最上層部の者でも、それを理解していない者がそれなりにいるとか。日本の皇太子殿下とローマ帝国の養女とは言えど皇女が結婚するとあっては、そういった者達が騒ぎかねません。そういった者達を予め静めておくために、私自らが訪問するのが妥当と考えます」
「確かにその通りですな」
二人はやや長い会話をした。
高虎や勝利は考えた。
まだ19歳の女性とは思えぬ聡明さだ。
本当に織田(三条)美子の名前どころか、血までも承けているようだ。
「よろしいでしょう。速やかにホットラインでオスマン帝国に連絡を取りましょう。唯、向こうも色々と準備がある。最低でも二日は待つ必要があると考えます」
「それは止むを得ません」
そのとき、二人の話を傍で聞いていた柳生利厳が口を挟んだ。
「二日も待つならば、この際に訪ねたい人がいるのだが。この私邸はそれなりに警備されている。磐子がいれば問題ないだろう」
「誰を訪ねたいのだ」
「島左近殿だ。もし、コンスタンティノープルにおられるのならば、直にお会いしたい」
「何故に」
「キエフ解放の際、ウクライナ語の讃美歌が四方から大いに流れることで、ポーランド=リトアニア共和国軍の兵の戦意が大いに損なわれたと聞く。それを考え付いたのが、島左近殿と伺った。敵兵の心を攻めるとは、真に兵法の達人の域に通じるモノ。実際のところを、兵法者として伺いたいのだ」
「ふむ。すぐに居場所が分かるだろうか」
柳生利厳と藤堂高虎は、そんなやり取りをした。
それに美子も介入した。
「島左近殿が、コンスタンティノープルにおられるのならば、柳生利厳が訪ねても構いません。それに私も手配したい物を思いつきましたので、それに少し時間が掛かります」
「何を手配したいのですか」
「オーロックスの干し肉です。出来れば仔牛の肉ならば最上です」
「何とか手配できると思います」
「それから、オスマン帝国に連絡する際に、コーカサス(ヨーロッパ)バイソンの干し肉の準備を希望していると伝えて頂けませんか。同様に仔牛の肉ならば最上です。後、北米共和国の徳川秀忠大統領にもアメリカバイソンの仔牛の干し肉を、鷹司邸に航空便で送るように秘密裏に連絡してください」
「一体、何のために必要なのだ」
美子の高虎への細かい要求に、流石に勝利が介入した。
「この3つの品を今上陛下と皇后陛下、それに皇太子殿下に私から献上することで、皇太子殿下と徳川千江の婚姻の内実の意味について、お伝えしたいと考えます」
「私には意味が分かりませんが」
「これは分かる人にだけ、分かればよい判じ物です。それ故に説明はしません」
美子と高虎はやり取りをした。
美子は想った。
この3つの品の意味について、皇后陛下には予め奏上しておこう。
今上陛下と皇太子殿下には、自分で考えていただこう。
私なりにこの3つの品を献上することで、特に皇太子殿下に私の心の奥底を伝えたい。
私は貴方の義母なのだと。
最後の一文ですが、厳密に言えば、鷹司(上里)美子は尚侍に過ぎず、皇太子殿下の父である今上陛下の配偶者では全くありません。
ですが、歴史上、尚侍は今上陛下の御寝に侍るのがよくあることで、事実上の配偶者と言えました。
更に、そう告げることで、美子としては、私が皇太子殿下と性的関係を持つのは二重に赦されないことだ(美子には既に鷹司信尚という夫がいる)、と皇太子殿下を強く戒めようと考えているのです。
ご感想等をお待ちしています。




