第72章―19
そんな義理の伯父と姪のやり取りがあった翌日の午前、早速にエウドキヤ女帝に鷹司(上里)美子は謁見することになっていた。
言うまでも無く、上里勝利がエウドキヤ女帝に密奏を行って、美子がコンスタンティノープルに到着したこと、更にエウドキヤ女帝への秘密裏の謁見を求めていることを伝えたからである。
これに対して、エウドキヤ女帝は上里勝利と現帝国大宰相である藤堂高虎の二人を立会人に指名し、更に自らが信頼できると考えている陰の護衛(20人程の甲賀や伊賀の忍び)の面々を、それなりに配置した上での美子との秘密裏の謁見を行うことにした。
それに対して、美子も柳生利厳と磐子を伴に連れた上での秘密裏の謁見を希望して、エウドキヤ女帝もそれを認めた次第だった。
さて、その際に皇宮に赴いた際だが、磐子は周囲からの警戒に苛立たざるを得なかった。
自分と柳生利厳に対するエウドキヤ女帝の周囲の護衛の面々の腕に落胆せざるを得なかったからだ。
本当に陰の護衛を行うのならば、自分に気づかれるような気を放つようでは完全失格だ。
更に言えば、この場にいる全員を柳生利厳と二人で相手取っても、エウドキヤ女帝の御首頂戴が出来そうな面々しかいないとは。
甲賀と伊賀の忍びの腕も落ちたモノ、と磐子は内心で冷笑した。
だが、周囲の護衛の方が、実は完全に気おされていた。
「あれが「天皇の忍び」なのか」
「伝説として聞いてはいたが、とても勝てぬ。「天皇の忍び」は不殺を貫く、と伝え聞いたが、それ故に却って力量の差を痛感する」
そんな会話が密やかに甲賀や伊賀の忍びの間で交わされた。
幾ら何でもということで、エウドキヤ女帝の御前に赴く以上、磐子も柳生利厳も寸鉄も帯びていない。
だが、全くの素手が相手の筈なのに、甲賀や伊賀の忍びの面々は武装しているのに、その二人に対して気おされてしまう。
それだけの気を二人は発しているのだ。
それこそ相手が万の軍勢と言えども、平然と割って進めそうな気だ。
いや、忍びだからこそ、二人の気を敏感に感じてしまっていた。
忍びはその任務上、気を感じる訓練を積まざるを得ない。
それこそ隠密行動を旨とする以上、様々な気を感じ取れぬようでは忍びは任務を果たせないからだ。
そして、磐子や柳生利厳は、美子の護衛という任務に当たっている以上、それなりの気を発して、周囲を威圧せざるを得ない。
そのために、甲賀や伊賀の忍びが却って気おされる事態が起きたのだ。
更にその状況を、忍びとの付き合いがそれなり以上にこれまでにあった勝利は感じた。
「ふむ。これ程に陰の護衛が怖れる程の伴を美子が連れているとは。日本の宮中も軽い気持ちでこの件を持ち掛けたのではないようだ」
そんな想いが、勝利に浮かんでならなかった。
(実際はそんなことは全く無い、と言っても間違いでは無いのだが)
「最もそれ以上に美子がエウドキヤ女帝に気おされる可能性が高い、と自分は考えるが」
勝利は、更にそうも考えていた。
実際に19歳の小娘の美子が、50歳のエウドキヤ女帝に勝てる未来が、本来ならばある筈もない。
それ位の様々な差が二人にはある筈だった。
だが、美子としても必死だった。
何としても皇太子殿下と徳川千江を結婚させる。
そうしないと自分の身に危険が及ぶし、皇太子殿下を醜聞に塗れさせることになる。
そう腹を括って、エウドキヤ女帝に謁見していたのだ。
そして、遂に美子とエウドキヤ女帝の対面のときは来た。
「初めてお目にかかります」
「うむ」
美子とエウドキヤ女帝は、それなりの初対面の挨拶を交わした。
だが、二人は共に相手の様々なことを察し、相手を自分の思い通りに説得しよう、と内心では完全に腹黒い考えでこの場にいた。
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