エピローグ―5
そんな騒動がまだ完全には終わる前、鷹司(上里)美子の下を南米の伊達智子(言うまでも無いが、美子にしてみれば父の上里清の異母姉になる)から届いた出産祝いを届けて直に祝いを伝えるため、と称して伊達政宗と広橋愛は連れ立って鷹司邸を訪ねて来た。
「それにしても、流石は鷹司家というべきか。いや、従妹殿の余光がそれだけ大きいのかな。本当に世界中から祝いの品が届いているようで祝着至極」
政宗は美子に逢って早々に皮肉を言った。
実際にその通りで、これまでに述べてきたように鷹司信尚と美子の間の初子の祝いが世界中から祝いの品が届いていると言っても過言では無い。
そして、美子にしてもこれまでの政宗との長い付き合いから、政宗の口が悪いのは重々承知しているから、皮肉には皮肉で返すことになった。
「智子伯母様から祝いの品が届いたので、本当に世界中から祝いが届いた気がします。何しろ豪州の細川幽斎殿からもお祝いが届きました」
「ほう、細川幽斎殿からも」
美子の言葉に、政宗はわざと大仰に驚いた。
とはいえ、それが擬態なのは美子にとっては明らかで、尚更に美子は冷めて返すことになった。
「そこまで驚かれては、却って不自然ですよ」
「はは、流石に儂の従妹にして広橋愛の実の娘よ。本当に聡いな」
その言葉を聞いて、とうとう政宗は破顔一笑して言った。
政宗にしてみれば、美子が極めて聡いのを知っていたが、ここまでのやり取りができるとは思ってもみないことだった。
血は直に繋がっていないが、流石は自らにとっても伯母になる上里美子の名を受け継ぐ者としか、言いようが無い聡明さだ。
何れ自分が首相になった際には、この美子を尚侍に据えたいものだ。
それで、伯父の織田信長元首相や、恩人になる木下小一郎元首相がやったように、政府と宮中を共に掌握して、自らの思い通りの政治を自分はしたいものだ。
そんな政宗の黒い考えを何処まで察したのか。
美子は義姉になる愛と細川幽斎殿からの祝いの内容を話していた。
(美子の義理の叔父の中院通勝は細川幽斎の弟子であり、美子は中院通勝を師匠として源氏物語や和歌等を学んでいることから孫弟子になる)
「孫弟子、更に鷹司家の正室に対する祝いとして、何れは古今伝授を伝えたいと言われました」
「それは素晴らしいわね」
「ええ。本当に素晴らしいお祝いです」
義理の姉妹はそうやり取りをした。
愛は想った。
美子に古今伝授が伝えられることを認められるとは、本当に素晴らしい話ではないか。
実際に美子に古今伝授を伝えるのは、京にいる美子の義理の叔父になる中院通勝を介して、ということになるのだろうが、細川幽斎殿が許可を与えたと言えば、身内贔屓という批判はまず避けられるだろう。
その一方で、美子も想いを馳せていた。
古今伝授を学び、私は鷹司家の正室として、鷹司家の中で風雅の世界にこれからは生きて、夫と共に温かな家庭生活を生涯、営んでいきたいものだ。
色々と複雑な家族関係の中で生きてきて、それこそ思わぬことがあった末に、鷹司家の正室に自分はなることになった。
これから後、自分が次男を産めば、その男子が上里家を継ぐ騒動が起きるかも。
だが、それ位で私の生涯に波乱は起きる筈がない。
だって、鷹司家の正室で男児を無事に産んで、それこそ世界中から祝福されたのだから。
そう、この時には美子は想って、これからの安楽な趣味に生きれる人生を夢見たのだが。
数年後には美子は自分の人生に対する考えの甘さを悔いることになる。
その時に美子は想った。
自らに流れる上里家の血の宿命を自分は考えるべきだった。
松一お祖父さんや清父さんと同様、自分は望んでもいない出来事に巻き込まれてしまう宿命なのだ。
これで、第12部を終えて、一旦、完結させます。
今年の12月末頃に第13部の投稿を開始する予定です(尚、予定は未定です)。
第13部は1610年頃が舞台で、鷹司(上里)美子は19歳になっています。
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