エピローグ―2
そんなやり取りを鷹司(上里)美子と九条(徳川)完子が交わした少し後、1601年3月下旬に美子は無事に男児を出産していた。
更に鷹司家からその知らせを満洲の地で受けた上里清夫妻は悦ぶことになった。
「娘の美子が結婚して、すぐに妊娠して、更に男児を産むとは」
清は娘の美子が男児を無事に産んだとの知らせに狂喜していた。
「本当に良かったですね。鷹司家も安堵しているでしょう」
夫の余りの狂喜に少し冷めてしまい、理子はそう言ったが内心では喜んでいた。
理子は想った。
結婚したからと言って子どもが産まれるとは限らないし、更に言えば、その子どもが男児とは限らず、女児ばかり産まれることもよくあることだ。
それこそ日本で言えば島津義久元首相がそれで苦労しているし、徳川秀忠も苦労している。
だが、美子はそれこそ結婚してすぐに妊娠して、更に男児を産んだのだ。
鷹司家にしてみれば望外の嫁としか言いようが無く、正室として美子を重んじるだろう。
そんな風に公家の娘として、更に美子の実母では無く養母であることから、一歩引いた視点で理子は美子の出産を喜ぶ一方で見ていた。
更に清夫妻を喜ばせていたのが。
「それにしても美子が優秀なのは分かっていたが、留年ナシで進級できるとは想わなかったな。流石に1学期も2学期も100点満点で平均90点を確保していた甲斐はあったな」
「大丈夫と信じていましたが、本当になると嬉しいものですね」
夫の清の言葉に、妻の理子は寄り添った。
女子学習院中等部は、昔はともかく、今ではそれなりの成績を確保しないと進級できない。
(この辺りは現実の多くの私立学校と同じで、余りに成績が悪いと退学を勧められる)
そして、美子は出産のために三学期の期末試験を欠席せざるを得ず、三学期の期末試験は全科目0点に成らざるを得なかったのだが、これまでの1,2学期の成績が良かったので、通年でも平均60点以上を確保することに成功して、無事に進級できたのだ。
「儂の実の娘だけのことはある」
と親バカを清は発揮したが。
理子は少し冷めた目で夫を見た。
夫が陸軍士官学校から陸軍大学を出る程に頭が良いのは事実だが、それに加えて美子の実母の愛の頭の良さを、美子が受け継いでいるのも事実なのに。
そんな風に娘の出産を夫婦で喜んでいると、何処から美子の出産を聞きつけたのか、祝いを持参してヌルハチが清夫妻の下を訪ねて来た。
「おめでとうございます!娘さんが、男児を産まれたそうですな。これはこの地で採れた最上級の天然の高麗人参です。正直に言って悩んだのですが、私なりの誠意を示そうと考えてお持ちしました」
「これはご丁寧にありがとうございます」
「娘さんの下にお送りください。きっと産後の体調回復に役立つと考えます」
「満洲産の最上級の天然の高麗人参とは。これを飲めば、娘の美子はすぐに良くなるでしょう」
ヌルハチと清は、傍から聞けば素直な会話を交わしたが。
お互いに内心ではすれ違った少し黒い考えをしていた。
ヌルハチは考えた。
満洲産の高麗人参は、それこそ日本が高麗人参の人工栽培を始めたことから、価格が下落して色々と苦戦を強いられている。
だが、このような形で天然ということを表に出して売り込み、更に日本の最上級貴族、鷹司家がそれを愛用していると宣伝していけば、それなりに高くとも売れるようになるはずだ。
清も考えていた。
ここは素直に高麗人参を受け取って然るべきだな。
更に美子の下に送らねば。
最上級の天然の高麗人参を飲めば、美子の体調は速やかに良くなるだろう。
最もヌルハチ殿なりに、日本への高麗人参の売り込みを考えての行動なのだろうが。
これくらいのことは目を瞑って当然だな。
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