第71章―18
そんな流れが起きていくのだが、それを世界の人がどう見たのか、ここで描いていくならば。
「凄い。本当に人工衛星が宇宙に打ち上げられるなんて」
鷹司(上里)美子は、ロケットの打ち上げから人工衛星が軌道に乗る成功を収めたという臨時ニュースがテレビで流れるのを自宅、鷹司邸で見て感動していた。
尚、美子は生理が止まっていて妊娠したのでは、と自分や周囲は考えていたが、まだ最初期ということもあって、医師も確実に妊娠しているとまでは診断しかねている状況だった。
美子は思わずお腹を撫でながら想った。
本当に自分が妊娠していたらだが、中等部2年生での出産ということになる。
産まれてくるのは男の子だろうか、女の子だろうか。
どちらにしても、本当に妊娠していて、更に出産して、その子が物心つく頃には、宇宙に人工衛星が打ち上げられることが世界のニュースになるようなことは無くなっているような気がする。
何故なら、それがありふれたことになっている気が私はするから。
北米共和国が月へ人類を送り込むということを言いだしたのは、私が産まれた年の1年前だ。
その時にはロケットは既にあったが、宇宙に届くまでのロケットなどは影も形も無かった。
それが私が産まれて、子どもを産む前に宇宙に人工衛星が打ち上げられるとは。
私がおばあちゃんと自身の孫に呼ばれる頃には、本当に人類が月を歩いているかも。
「子どもが産まれて、心身が安定したら、トラック諸島を訪れたいな。そして、宇宙にロケットが打ち上げられるのを実際に見たいな」
そんなことを美子は口に出した。
本来から言えば、現在のトラック諸島は、ロケット打ち上げのための科学技術者を始めとする関係者とその家族しかいない島と言っても過言では無く、それこそそういったことに無関係な女学生の美子が行こうとしても、訪ねられるところではないが。
「義理とはいえ従兄弟がいるところだし、親友の完子さんに頼めば何とかなるわよね」
美子は呟いた。
そう上里秀勝と美子は従兄弟関係になる。
(美子の実父の上里清と、上里秀勝の実母の織田美子は義理の姉弟)
又、美子の親友の徳川完子は、上里秀勝の妻の茶々の実の姪になるのだ。
(完子の母の小督は、茶々の妹になる)
我がままといえば我がままなことだが、こういったコネを使えば何とかなるのでは。
そんなことを美子が考えていると、実母にして義姉の広橋愛が訪ねて来た。
当たり障りのない挨拶を交わした後、実の母娘という事もあって、愛は単刀直入に尋ねた。
「妊娠したかも、という噂を聞いたのだけど、本当なの」
「ええ、まだかもですが」
美子は微笑んで答えた。
愛は想った。
美子を産んで落ち着いた頃に、後に養母になった理子さんに、自分の素性を見抜かれた時には本当に驚いたものだ。
そして、その際に幾つかやり取りをしたのだが、その中で未だに自分が覚えていることの一つに、
「貴方にこの汚れた世界で生きて欲しいと思ったから。そして、何れは月にまで人が行けるらしいわ。それを貴方に見てもらいたいと考えたから」
と言われたことがある。
そんなことできる訳がない、とそれを聞いた時は反射的に考えたが。
それから14年程で、本当に宇宙に赴けるロケットが開発されて、実際に宇宙に赴くなんて。
実の娘の美子が妊娠していればになるが、私の実の孫が美子と同じ位の歳になる頃には、本当に人類が月を歩く時代が来るかもしれない。
「本当に時が経つのは早いわね。もう少し時が緩やかに流れて欲しい、と想うわ。表立って名乗れないとはいえ、お祖母さんにもうすぐ私になるかもしれないわね」
「そうですね。もう少し時がたおやかであってほしいです」
実の母と娘は言い交わした。
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