第71章―13
そして、暫く経ってトラック諸島でこの世界初の人工衛星を積んだ宇宙ロケットの打ち上げを見届けた科学技術者やその家族達が落ち着いて帰宅した頃に、トラック諸島に設けられた宇宙ロケット基地から正式に宇宙ロケットの打ち上げは成功して、人工衛星が正常に稼働しているとの発表が為された。
それを受けて、トラック諸島の主な家庭では、それこそ家族ぐるみでこの成功を祝う光景が展開されることになった。
「良かったですね」
「ああ、クビにならずに済んだよ。義姉上から幾ら冗談とはいえ、
『今回の人工衛星を積んだ宇宙ロケットの打ち上げに失敗したら、クビですよ』
と言われていたからな」
「義姉上のことですから、本当にクビが飛んだかもしれませんね」
「笑い事では無いがな」
そんな会話を帰宅した上里秀勝と茶々は交わすことになった。
尚、その周囲には二人の子ども達もいる。
「クビってどうなるの」
「お前達はまだ知らなくて良いことだよ」
「そうですよ」
子どもの一人が尋ねて来たのを、両親が揃ってとぼけることになる。
義姉上とは、ローマ帝国のエウドキヤ女帝のことだ。
それこそ世界中に恐怖政治の体現者、世界史上屈指の暴君として名を轟かせている。
実際には大変な癇癪持ちで、又、苛烈なところもあるが、それなりに理性的な専制君主であり、反対者を容赦なく殺戮しているのは事実だが、反対者の家族だからと言って、それだけで殺戮するようなことまではしておらず、それこそ上里秀勝夫妻にしてみれば、エウドキヤ女帝の父のイヴァン雷帝の方が、遥かに暴君だと考えているのが現実だった。
とはいえ、これまでの数々のやらかしから、エウドキヤ女帝が、
「あの者をクビにします」
というのは、文字通りにギロチンによってあの者の首が飛ぶこと、と殆どの人が考える現実があった。
だから、上里秀勝夫妻はそんな会話を交わすことになった。
その一方で、人工衛星を積んだ宇宙ロケットの打ち上げが成功したことから。
「それこそこの計画に参画している全ての国で、人工衛星を積んだ宇宙ロケットの打ち上げ成功を祝う様々な出来事が起きているとのことだ。例えば、日本では多くの街で、これを祝う提灯行列を出そうという動きがあるとのことだ」
「それは素晴らしいですね」
上里秀勝は茶々にそう言い、茶々は素直に喜んだ。
「勿論、北米共和国や私達の祖国であるローマ帝国も同様に祝っている。それにしても、義姉上(エウドキヤ女帝のこと)は気が早い。次は人を宇宙に送り込みましょう、来年には何とかしましょう、と言ってきた」
「そんなことが可能なのですか」
「来年では無理だな。幾ら重量的には人を宇宙に送り込むことは可能なこととはいえ、宇宙空間で人を生存させて、更に地球に帰還させるとなると、まだまだ研究しないといけないことが多い」
上里秀勝は、そこまで言ったところで、敢えて言葉を切り、更に真顔になって言った。
「だが、数年後には可能だろう。勿論、世界各国の協調体制が続けば、のことだが」
「きっと続きますよ。これまでも順調に進んできたではありませんか」
茶々は無邪気にそう言い、上里秀勝は微笑みながら肯いたが、内心では別のことを考えていた。
確かにここまでは順調に進んでいる。
だが、その一方で、こういった成果が様々な方法で、表から裏から世界各国に流れているだろうことも現実なのだ。
そうローマ帝国の諜報機関は、自分に知らせてきている。
世界各国から科学技術者達が集っている以上、そういった成果が世界各国に流れることを完全に阻止するのは不可能な話だ。
願わくば、そういった成果が世界各国において、軍事面に少しでも転用されねば良いのだが、極めて困難なことだろう。
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