第71章―11
そして、そんな風に各所で科学技術者やその家族達が集いつつあるのを、管制塔にいる上里秀勝やその部下、更にはこれを見届けようと世界各国から集ったそれなりの立場にある者達は見て、何とも言えない想いがしてならなかった。
ケプラーと同様に、本当に世界各地から様々な人種がこの場に集っているものだ、とその多くが想わざるをえなかったのだ。
更には、世界各国共同で行われたのもあるが、世界で初めて人工衛星を積んだ宇宙ロケットの打ち上げが行われることが世界中に知られることになる。
「これは打ち上げに失敗したら、世界中から非難を浴びて、この職を退かざるを得ない気がするな」
上里秀勝は想わずそう呟いた。
「大丈夫ですよ。それこそ試作ロケットも含めれば何十発どころか、百発単位の実験が世界各地で行われて、その精華がここに集められたのです。それに確実を期す為に、クラスターロケットでの打ち上げが行われることになっています。大丈夫だと信じましょう」
「うん」
北米共和国から派遣されている真田信之の言葉に、上里秀勝は肯きつつ答えた。
「万が一のことがあったら、私から秀勝殿の実母に伝えて、更にその上に言ってもらいますから。少なくとも日本政府から辞職を求めるようなことはありませんよ」
その場にいる上里丈二は、敢えて茶化すようなことを義理の甥になる上里秀勝に言った。
「はは。自分としては瞼の母にもならない母なのだが、いざという場合には頼みにさせてもらおう」
上里秀勝は、義理の叔父の言葉に苦笑いしながら、言わざるを得なかった。
上里秀勝の実母は、織田美子である。
だが、乳離れしたばかりといえる1歳になってすぐ、織田美子の弟夫婦になる上里勝利夫婦の養子に秀勝はなったので、秀勝にしてみれば美子を母と考えて行動したことは、ずっと無かった。
だが、この地位に成る際に実母の美子が、かなり動いてくれたのを自身が聞いてからは、それなりに実母への態度を秀勝は改めていて、美子とは手紙等を送る仲になっている。
そんな少しでも気がほぐれる雑談を交わしている内に、いよいよ世界初の人工衛星を積んだ宇宙ロケットの打ち上げ時刻が迫って来た。
それぞれの部門の責任者から、最終チェックが完了して、打ち上げ準備が整った旨の連絡が相次いで上里秀勝の下に入ってくる。
いよいよか、上里秀勝は覚悟を固めた。
「それでは、宇宙ロケットの打ち上げの最終秒読みを開始する」
実際には、まだ10分ある以上は分読み、分秒読みではないか、との埒もない考えが脳裏を掠めるが敢えて無視する。
上里秀勝は、そう指示を下して、10分前からのカウントダウンの指示を下し、人工衛星を積んだ宇宙ロケットの打ち上げの最終段階が始まった。
「3,2,1,0。発射です」
秒読み担当者の声が耳に入るのとほぼ同時に、人工衛星を積んだ宇宙ロケットの打ち上げの轟音が管制塔の防音ガラス越しに、管制塔内に響き渡った。
「「うわっ」」
予め分かっていて、その対策として防音ガラスが使われる等の対策が講じられていたのだが、それでも宇宙ロケットの打ち上げの際に生じる余りの轟音に、管制塔内の何人かが思わず声を挙げた。
上里秀勝自身も反射的に手で耳を抑えた。
だが、その一方で途中からは心眼になったが、宇宙ロケットが大気圏を脱出し、人工衛星が周回軌道に乗るのを、上里秀勝は懸命に目で追った。
尚、これはその場に集っている面々の殆どがやったことだった。
そして、暫く経った後、
「人工衛星からの電波を受信しました。成功です」
担当者からの報告を受けた瞬間、管制塔内では歓声が爆発した。
上里秀勝を始め、この場に集った全ての人が考えた。
新時代の幕開けが始まった。
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