第71章―10
間もなく打ち上げられる予定の人工衛星を積んだ宇宙ロケットを見ながら、そんなことを池田元助が考えていると。
それこそ急いで待つ身がどうにもつらくなったのか、池田元助と似たような立場にあるトラック諸島にいる世界各国の科学技術者達が、池田元助の傍に何時か集いだした。
池田元助のいる場は、宇宙ロケットの打ち上げを外から見るのに絶好の場であり、その一方で、実際に宇宙ロケットの打ち上げを行う、いわゆる管制塔内に入れるのは文字通りの担当者だけで、それ以外の科学技術者達のほとんどは、外から宇宙ロケットの打ち上げを見守るしかないという現実があった。
こうしたことから、多くの科学技術者が結果的に池田元助の傍に集うことになった。
池田元助は周囲にいる科学技術者の面々を見回し、誰がいるのかを確認しつつ、自らの服のポケットの中に入れている耳栓が確かにあるのを思わず確認した。
何故なら、この場に集っている科学技術者の多くが既に耳栓を入れていたからだ。
宇宙ロケットの打ち上げに伴う轟音は余りにも大きい。
それこそ、耳栓をしていなければ、鼓膜が破れておかしくない音量である。
それは、これまでに行われてきた数々の試作ロケットの打ち上げで、この場に集っている科学技術者全員が承知していると言っても過言では無かった。
だから、予め耳栓をしてこの場に科学技術者が集ったのだ。
とはいえ、実際に人工衛星を積んだ宇宙ロケットの打ち上げが行われるのには、まだまだ1時間以上がある筈だった。
にも関わらず、多くの科学者が既に耳栓をしている理由だが。
池田元助は、内心で苦笑しながら、自らも耳栓をすることにした。
自分もそうだが、多くの科学技術者が自分一人の世界の中で、世界初の人工衛星を積んだ宇宙ロケットの打ち上げを見て、心の底から味わいたいのだ。
まだまだ1時間以上も待つしか無く、ハッキリ言って、こんなに早く集う必要は無い。
それに極論をすれば、トラック諸島の何処からでも、この宇宙ロケットの打ち上げを見ることはできると言っても過言では無い。
それでも、このような特等席といえる場所を占められた以上、我が儘と言われそうだが、この感動を一人の人間として、ゆっくりと味わいたいものだ。
それに上里秀勝殿なりの思いやりなのだろう。
必要最低限の人間がいればよい、として多くの休暇申請がほぼ通ったとか。
実際にどうしてもという仕事が無ければ、半日ほど休んで、これ程の大事業の一つの頂点を見届けたいというのは、科学技術者以前の一人の人間として当然のことではないだろうか。
そんなことまでも、池田元助は考えつつ、耳栓をして一人きりの世界に浸って、宇宙ロケットの打ち上げを待つことにした。
さて、その場には当然というと何だが、ケプラーやガリレオもいた。
ケプラーは周囲を見回して考えた。
本当に世界中の人が集ったようだ。
様々な肌の色を持つ人が、この場にいる。
何だかんだ言っても、日系人が多い以上は黄色人種系が多いが、自分のような白人もいるし、北米共和国等から黒人もトラック諸島には来ているからだ。
こんな風に様々な肌の色を持つ人が集って、世界初の人工衛星を積んだ宇宙ロケットの打ち上げを見届けることになるとはな。
ガリレオも、又、考えていた。
妻や子はロケット打ち上げの光景を見て、どのような印象を持つだろうか。
幾ら秘密を保とうとしても限度がある。
間もなく世界初の人工衛星を積んだ宇宙ロケットの打ち上げがあるというのは、トラック諸島の住民全てが知っていると言っても過言では無い。
だから、何処かで妻子も見ているだろう。
ここは基地の内部だから、妻子は入れない。
妻子からズルいと言われそうだな。
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