第71章―7
(メタい話になるが)余り細かく宇宙ロケット開発の際に生じる様々な問題について描くと、それこそ学術論文になるので、燃料問題にほぼ絞るが。
最初に宇宙ロケットの燃料として想定されたのは、固体燃料だった。
(実際に現実世界でも固体燃料による宇宙ロケットは開発製造されており、必ずしも誤ってはいない)
更に言えば、実際に軍用として固体燃料を使ったロケット兵器は、この世界の1590年当時には既に複数存在していた。
例えば、主に日系諸国(日系諸国以外でもオスマン帝国やスペイン等でも導入されている)の歩兵が携帯する対戦車兵器として使われる対戦車ロケット砲である。
他にも面制圧兵器として開発され、特にローマ帝国が愛用している多連装ロケット砲があった。
だから、固体燃料によるロケットで宇宙を目指そうとすること自体は、既に固体燃料ロケットが宇宙向け以外では実用化されていることも相まって、おかしなことでは無かった。
だが、(特にこの頃の話になるが)固体燃料ロケットには欠点があった。
それは一度点火したら、消火することは不可能であり、再点火等は以ての外、という欠点だった。
更に微妙な出力調整等も不可能と言って良かった。
そのために誘導制御が困難であるという問題を抱えていたのだ。
更に言えば、この誘導制御が困難であるという問題は、この当時の様々な技術問題から極めて頭が痛い問題を引き起こさざるを得なかった。
何しろ(史実で言えば)1950年代の技術レベルに、この世界の1605年は過ぎないのだ。
だから、やっと機械式計算機からエニアックが造られ、そこから真空管式コンピュータの量産化が世界的に始まっていた、といってもよい世界である。
(更に言えば、1605年時点で真空管式コンピュータを量産できるのは、日本だけと言っても過言では無く、それに追いつこうとしている北米共和国の多くの国民が、
「真空管式コンピュータに、算盤(要するに筆算)で対抗している」
と自嘲しているのが現実だった。
最も実際には、それなりに増加試作ができて、後数年で真空管式コンピュータを北米共和国も量産できるようになる見込みではあった。
尚、ローマ帝国はともかくとして、他の国にしてみれば真空管式コンピュータは試作さえ困難としか言えないのが、1605年当時の現実だった)
ともかく、そういったことから、1590年に宇宙ロケット開発構想が始まってから僅か2,3年で液体燃料による宇宙ロケット開発構想を各国は行わざるを得ない、ということになった。
(この世界の)1590年当時となると、史実のエニアックすら夢の世界に近かった。
だから、誘導制御問題を考える程に、液体燃料による宇宙ロケット開発が妥当だ、と世界各国は考えることになったのだ。
とはいえ、液体燃料による宇宙ロケット開発にしても、それこそ後世の観点からすれば、迷走といっても過言では無い事態が起きるのは避け難いことだった。
1590年代前半にロケット燃料として実用化可能な液体燃料となると、エタノールと水を混合させた推進剤に、液体酸素を組み合わせた代物しかないと言っても過言では無かった。
(他にも各種の液体燃料が、日系三国を中心とする科学技術者によって同時に研究されてはいた)
そうしたことから、口の悪い科学技術者に言わせれば、
「宇宙ロケット1基を潰せば、世界中の大半のアルコール依存症患者が幸せになれるだけのアルコールが世界にばら撒かれる」
量のアルコールが、原型の宇宙ロケット1基に用いられる事態が引き起こされることになったのだ。
更に言えば、液体燃料となると最初から大型のロケットで製造を行うしかないという問題もあったのだ。
末尾の表現ですが、流石に冗談です。
とはいえ、それだけ大量のアルコールが宇宙を目指すロケット打ち上げには必要なのです。
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