第71章―5
そんな感じで上里秀勝が、トラック諸島の宇宙ロケット基地の司令官に就任する一方、日本からもそれなりの補佐役がトラック諸島には赴任していた。
日本からは科学者として池田元助、軍人として来島通総や真田信繁ら、更にはお目付け役として上里秀勝からすれば、義理の叔父になる上里丈二までが不定期的に監査官としてトラック諸島に赴く事態が起きていた。
勿論、北米共和国もそれなりの人材をケプラー以外にも派遣している。
そうした中で、一番、著名と言えるのが真田信之で、信之は妻の稲子と共にこの地に赴いている。
更に言えば、稲子と上里秀勝の妻の茶々はそれなり以上に気が合うようになっていて、そのことで信之は胃に穴が開くような想いをしょっちゅうする羽目になっている。
今日も今日とて、信之は弟の信繁に愚痴る羽目になっていた。
「本当に勘弁してほしい。稲子め、前田利長殿から上里秀勝様にと贈られてきた物を、私は秀勝様の実親の織田家の縁者だから貰っても構わないでしょ、と言って強引に貰って来た」
「えっ。そんな縁がありましたか」
「稲子は、私からすれば義父の本多忠勝殿が、徳川家康殿の第一の武人と言って良かったことから、徳川家康殿に知られて、更にお気に入りになってな。家康殿の養女になっているのだ。だから、稲子は徳川秀忠の妻の小督の義姉になり、実際には絶縁関係だが、松平信康殿とも縁が繋がる。それ故に織田家と縁がある以上は問題ない、と稲子は言っているのだ」
「そこまで言い出したら、キリがない縁になるのでは」
「全くだが、稲子は気が強いからな。自分では止められん。更に茶々殿にまで、
『稲子の言う通りです。稲子が欲しいのならば差し上げましょう』
とまで言われては。秀勝殿が苦笑いされて、それが許されるのさえも自分は心苦しくなってくる」
「それは大変ですね」
兄の信之の愚痴に、信繁は寄り添うようなことを言いつつ、自分の妻の清子が大人しくて良かった、と心から思うことになった。
そんな余談まで出たのだが、稲子と茶々は気が強い女同士、却って気が合うのか、親友と言って良い関係を築いている。
その二人を介して、本来的には様々な意味で気が合わなくてもおかしくない信之と秀勝までが、それなり以上に親しくなってもいた。
さて、この件についての余談はここまでにして、1605年現在時点の宇宙開発の現状を述べるならば、本当に苦心惨たんの末にここまで至ったとしか、言いようが無かった。
1590年に北米共和国が月へ赴くための宇宙ロケット開発をぶち上げて、それに日本やローマ帝国が賛同して、更にその波紋が世界各国に広がっていくことになり、現状ではトラック諸島に宇宙ロケット基地が設けられる事態にまで至ったのだが。
1590年当時のロケット技術というと、それこそ固体燃料がロケット燃料の主役で、数キロ先にまで届くロケットがやっと実用化されていると言っても過言では無い状況だったのだ。
だが、宇宙ロケットとして用いられることになると、液体燃料は必須と言っても過言では無く、更に地球の重力を脱出して、宇宙にまでロケットを届かせるとなると、少々の速度を出せるロケットではとても無理な話なのは、宇宙関係の科学者にしてみれば自明の理になる。
実際、それこそ落体の法則どころか、史実では自分の死後に発見された万有引力の法則等まで学んだガリレオが、この当時にこの世界で実用化されていた機械式計算機で地球の大気圏を脱出して人工衛星を造るのに必要な速度として、時速2万8440キロが必要との計算結果を初めて見たときには失神した程の超高速が要求されるのだ。
これはマッハで言えば、23以上にもなる速度だった。
大気圏脱出速度をマッハで書くのは、本来的には誤りなのですが、分かりやすくするためにしました。
後、稲子(小松殿)の逸話は、史実の嘘ではありますが、小松殿らしい逸話が元ネタになります。
(尚、元ネタでも被害に遭ったのは前田家です。
本当に忠勝は、どんな教育を子ども達にしたのか。
そして、かなり前に描きましたが、前田家と上里(勝利)家は、家族ぐるみの付き合いがあるのです)
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