第71章―2
同じようなことを、この地でガリレオと親しくなったケプラーも言っている。
最もこの世界のケプラーは、それこそこの当時では良くあることだったが、生家が経済的に傾いたことから、北米独立戦争に傭兵として参加することで一旗揚げようと父が北米共和国に赴き、そこで奮戦して稼ぎを得た経緯から家族を北米共和国に呼び寄せたために、今では北米共和国人になっている。
更に北米共和国で様々な天文学を始めとする科学を修めて、今では北米共和国でも将来有望な科学者の一人と目されるように、ケプラーは成っていた。
(更に皮肉を言えば、「皇軍知識」によって伝えられた史実のケプラーが発見した様々なケプラーの法則等を自らが学ぶことにもなった。
尚、同じようなことがガリレオにも起こり、史実では自らが発見した落体の法則等を、この世界では自らが学ぶという皮肉が起きた)
そんな裏話が転がるのだが、ガリレオもケプラーも、日本がというよりも「皇軍」がもたらした科学知識、特に天文学には完全に驚嘆せざるを得なかった。
例えば、既述だがガリレオは惑星の軌道は円軌道であると考えていたのが、楕円軌道であると学ぶことになり、惑星は円軌道であると説いたアリストテレスは間違っていたのか、と驚愕した。
ケプラーにしても、ピタゴラス的数学を子どもの頃は見聞きして正しいと考えていたのに、北米共和国で様々な科学知識に触れた結果、ピタゴラス的数学に誤りがあるのを学んで驚くことになった。
(とはいえ、ケプラーはそれでも趣味として占星術を続けており、余暇には最新の天文学を組み込んだ上での占星術の改良(占星術に使う惑星にしても、これまでは土星までしかなかったのが、天王星や海王星、冥王星を組み込むことになった)を自分なりに行っていた。
更に余談をすれば、主に欧州から来た占星術を信じる一部の面々からは、ケプラーの占星術は最新の天文学を組み込んだモノでよく当たると信じられてもいた)
ガリレオとケプラーは、お互いにそれぞれの母国から俊秀の若手科学者として、トラック諸島に派遣されており、更にこの地でお互いの面識を得て、尊敬しあうようになった仲だが。
それ故に「皇軍来訪」以前というか、日本から新たに得た様々な科学知識、特に天文学等の内容については、お互いに愚痴り合い、更に共感を覚え合う事態が起きていた。
「地球が中心どころか、太陽さえも中心で無いとは。更にそれが正しい、とローマ教皇庁が暗黙の裡に認める時代が来るとは、子どもの頃には信じられませんでした」
「復興したローマ帝国がローマ教皇庁に対して、「カエサルの物はカエサルに、神の物は神に」という聖書の言葉を持ち出して科学知識に絶対に口を出すな、という猛烈な圧力を掛け、それにローマ教皇庁が黙って従う時代が来ましたからな」
二人はお互いに苦笑いしながら話し合った。
「そして、太陽にしても石炭等が燃えているのではなく、核融合反応によって熱を出しているとは。更に核融合反応の実現はまだ苦労しているようですが、その前段階と言える核分裂反応については、人類は再現して、実用化を図りつつあるとは」
「そんなことを考えること自体が、日本から知識を学ぶ以前はありませんでしたな」
「我が北米共和国は核分裂炉、原子炉を実用化しており、何れは原子炉を動力源とする様々なモノを造りたいと考えているようですが、その辺りは私ごときでは詳細が分かりかねます」
「北米共和国はそこまでの状況にあるのですか。ローマ帝国がそのようになるのは、何年先のことになるのやら。私としては嘆きたいですよ」
「何れは追い付けますよ。実際に頑張れば」
そんなことを二人は話し合ってもいた。
小説上の都合にも程がある、と言われそうなので、予め弁明すると。
ケプラーの父が傭兵だったのは史実通りです、
但し、史実ではオランダ独立80年戦争にケプラーの父は傭兵として参加していますが、この世界ではオランダ独立戦争が起きていないので、北米独立戦争に参加しています。
又、ケプラーは17世紀当時は天文学者というよりも占星術師として著名だったとか。
そういったことを踏まえての描写です。
ご感想等をお待ちしています。




