第70章―24
あれ、サンクトペテルブルクはこの当時は無かったの?
と言われそうですが、この頃のサンクトペテルブルクは影も形もないと言っても過言では無く、更に史実でそう名付けられたのは、ロシアのピョートル大帝の時代ですから、名前すら無いのです。
だが、この提案は羽柴秀頼にしてみれば、不本意としか言いようが無い提案だった。
北方方面のヴォルガ川の源流部とラドガ湖をつなぎ、更に白海やバルト海をつなぐ運河等の建設はまとめてやるのが効率的である、と羽柴秀頼は考えていたのだ。
更に言えば、ヴォルガ川とドン川をつなぐ運河を先に建設しておけば、その運河を使って資材を内陸水路を駆使して、地中海方面の物資を北方の運河建設現場に運び込むことも可能になるのだ。
(ヴォルガ川とドン川をつなぐ運河建設については、黒海やアゾフ海を介して地中海方面の物資を運んで行うのが当然という考えが、羽柴秀頼の頭にはあった)
だが、エウドキヤ女帝陛下の提案に則った新方針では、そういったことは困難な話になる。
羽柴秀頼は仮の案として、バルト海沿岸のネヴァ川の河口にそれなりの拠点を築いて、そこを海上からの輸送路として活用し、ラドガ湖へと物資等を搬入して、その物資等を活用することで、ラドガ湖を介してヴォルガ川とバルト海をつなぐ方向で、運河の建設を検討せざるを得ないだろう。
羽柴秀頼は明敏な頭脳で、そこまで素早く仮の考えを進めた。
とはいえ、それはそれとして、他の話もせねばならない。
羽柴秀頼は腹を括って、モスクワ運河建設に従事した多くの労働者の今後のことを請願した。
「モスクワ運河建設に従事した多くの労働者ですが、その中で農地を新たに取得したい、そして、自営農民になりたい、と考えている労働者とその家族には、それなりの配慮をお願いします」
「うむ。モスクワ運河建設に労働者が奮闘せねば、このような短期間で運河が竣工することは無かったであろう。それなりの配慮をしよう」
「併せて申し上げるならば、それこそモスクワ運河建設に奮闘することで、生真面目に働く者なのを自ら証明した者達が揃っております。そのことも考慮頂ければ幸いです」
「確かにその通りだ。モスクワ運河建設という難工事に従事して、それを成功に導いた者達だからな。生真面目に働く、良き臣民なのを実証した者ばかりと言えるな」
羽柴秀頼の請願に、エウドキヤ女帝陛下は機嫌よく答えて、羽柴秀頼はその目的の一端を果たすことに無事に成功した。
そして、羽柴秀頼はエウドキヤ女帝陛下の御前を退出した後、暫く自分の働き場所のこと、更にローマ帝国の行く末等について、一人で考え込むことになった。
本来ならば、他の人と相談すべきことかもしれないが、まずは一人で考えをまとめた上で、他人に話さないと、自分自身の考えが揺らぎまくり、却って他人から不信の目で見られる危惧さえも覚えたのだ。
羽柴秀頼としては、エウドキヤ女帝陛下の命を受けた以上、モスクワ運河からヴォルガ川の更なる源流部へ、そこからラドガ湖等を介して、バルト海へ通じる運河を建設せざるを得ない、と半ば達観せざるを得なかった。
ラドガ湖からはネヴァ川が流れ出しており、ネヴァ川はバルト海へ流れ込んでいる以上、ネヴァ川を大規模に改修して、外洋船舶を航行可能にする等の方策を講じれば、エウドキヤ女帝陛下の命は達成可能なように考えられるが、そうは言っても容易でない工事になるだろう。
更に考えるならば、ネヴァ川河口部にそれなりの街を作る必要も出てくるだろう。
エウドキヤ女帝陛下の命に従うならば、物資を運び込む大規模な海港を築いて、モスクワ運河からバルト海へ通じる運河を築かねばならず、そうなってくると大規模に労働者を動員することが必要で、更にそうなるとその労働者を養うために大量の物資が更に必要になるからだ。
そうなると街を築いて、そういった物資を運送する人等を住まわせる必要がある。
羽柴秀頼はそういったことを考えた。
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