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第70章―23

 そんなエウドキヤ女帝陛下と文官達のやり取りが終わった後、羽柴秀頼は今後のローマ帝国内の運河建設についての自らの考えを上奏することになった。

 とはいえ、皮肉にも控室で羽柴秀頼は暫く待たされており、その間にローマ帝国の現状について漏れ聞いていたことから、それを踏まえての上奏をすることになった。


「無事にモスクワ運河の建設が終了した現在、ローマ帝国内において新たに別の運河の建設に取り掛かりたいと臣は考えています」

「うむ。以前にもほぼ同様の上奏を受けたな。それで、次に行いたいと考えている運河は何処か」

「はい。ドン川とヴォルガ川をつなぐ運河です。かつて、オスマン帝国が建設を試みましたが、結局は失敗したという曰くのある運河です。その運河をローマ帝国が建設に成功した場合、大いに国威を高める効果があると私は愚考致します」

「うーむ」

 エウドキヤ女帝陛下と羽柴秀頼はそんなやり取りをして、エウドキヤ女帝陛下は考えに沈んだ。


 暫く考えに沈んだ後、エウドキヤ女帝陛下は改めて下問した。

「モスクワ運河から北の海、具体的には白海やバルト海につながる運河建設を先にできぬか。朕としてはモスクワから北の海につなぐ運河を優先したい、と考えるのだが」

「できなくはありませんが、ローマ帝国で外洋船が建造できる港は、現在のところはそれこそ最大の港がコンスタンティノープルであり、それ以外の小規模な船が建造できる港にしても、全て地中海と黒海沿岸部にしかありません。白海やバルト海との運河を優先して建設した場合、地中海等から北大西洋を遥々と回航して外洋船を送り込むことになります。確かに河川の規模からして、5000トン程度の外洋船を運河を介して送り込むのがやっとですが、そうは言っても、難破等の危険を考えれば、ドン川とヴォルガ川をつなぐ運河を優先するのが至当と私は考えます」

「うーむ」

 羽柴秀頼の諄々たる説明に、エウドキヤ女帝陛下は頭を抱え込むような素振りさえ示した。


 羽柴秀頼は、(決して顔には出さないようにしつつ)一歩引いた冷めた目で見ざるを得なかった。

 エウドキヤ女帝陛下としては、先程、自分が漏れ聞いた事情からして、少しでも早くモスクワから日本本国まで外洋船で行けるようになりたいのだ。


 そして、考える内にエウドキヤ女帝陛下は、それなりの理屈を考えついた。

「確かにそなたの言う通りかもしれぬが。万が一の危険を考えるべきではないか。中央アジア方面に置いては、モンゴル系やトルコ系の遊牧民族が築いた国や勢力が未だに健在であり、そういった面々が協力して、ヴォルガ川やドン川流域まで掠奪行為を働く危険性はまだまだあると考えるが。その辺りはどう考えているのか」

「それは危険性が全く無いとは申し上げかねますが」

「危険性が全く無いとは言えない以上、最悪の事態を想定すべきではないのか」

 羽柴秀頼の返答に対して、エウドキヤ女帝陛下は更に追い打ちを掛けた。


 羽柴秀頼は、顔には決して出ないようにしながら、内心で大いに反論した。

 そんな最悪の事態を想定すべき、とか言い出したら、何もできません。

 ある程度の危険は甘受するしか無いのです。

 

 だが、現実問題として専制君主国家といえる現在のローマ帝国において、エウドキヤ女帝陛下にここまでのことを言われては、ドン川とヴォルガ川をつなぐ運河は後回しにせざるを得ないか。

 そう考えた羽柴秀頼は妥協案を出すことにした。


「それでは、ヴォルガ川とラドガ湖をつなぎ、更にラドガ湖とバルト海をつなぐ運河建設を、まずは行うことにするのは如何でしょう」

「うむ、それが妥当であろう」

 羽柴秀頼の提案にエウドキヤ女帝陛下はすぐ応じ、方針が固まった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エウドキヤ女帝も羽柴秀頼さんも柔軟性あり。エウドキヤ女帝も専制君主の悪い点は(まだ)目立ちません。 [気になる点] 銀英伝のラインハルト皇帝は、戦争やりすぎ、陣頭に立ちたがり過ぎ、共和主義…
[気になる点] ローマ帝国には、北極地路を開く資金がありますのでしょうか? 軍隊を近代化し、核兵器を開発する必要もあります。 [一言] そもそも、独立戦争後、日本が北米共和国に太平洋港を許してたのは…
[気になる点]  秀頼さんはこれまで漏れ聞こえていた他の奏上内容から「エウドキヤ女帝が北極海航路からの東進に意欲的」なのに気がついたからそこからぎりぎりの妥協点を見出せたので奏上が不毛な論争にならなく…
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