第70章―20
「北極海沿岸航路の探査に話を戻しますが、何とかエニセイ川河口から東へ進み、タイミル半島を越えて、レナ川の河口を確認して、ノヴォシビルスク諸島を確認しています。更に東に進むことで、コルイマ川の河口等を確認して、チュコト半島を越えて、ペトロパブロフスク=カムチャッキーまでたどり着くことに現状では成功しておりますが、現状の探査状況では大雑把極まりない海図を作るのがやっと、としか言いようが無く、貨客用として建造された砕氷船が、夏季に安心して通航可能な北極海の航路が開設できるか、と言われると、後5年は時間を頂きたいというのが、正直なところです」
「成るほどの」
北極海航路の現状報告を行う文官は、そのような言葉で発言を締めくくり、エウドキヤ女帝陛下はそれを嘉納するかのような言葉を吐いた。
「して、日本との国境線については、どのような話になりそうじゃ」
「大陸部に手を出すつもりは日本には無いとのこと。樺太、千島列島、ベーリング島を含むコマンダルスキー諸島、セントローレンス島を日本は確保し、カラギンスキー島を我がローマ帝国が確保するといった辺りが国境線になりそうだ、と日本外務省とはそのような内々のやり取りをしております」
「ふむ。ペトロパブロフスク=カムチャッキーを軍民港化して、それなりに定住できる街を作るのにはどれくらい掛かる。それができねば、北極海の航路を開設するのに苦労しそうだが」
「日本の協力次第です。積極的な協力があれば、1,2年でそれなりの街になりそうですが、協力せぬと言われた場合、5年以上かかるやも。何しろ、余りにも遠い場所になります」
「そうか」
エウドキヤ女帝陛下とその文官の会話は、それで終わったようで文官が退出する気配がした。
羽柴秀頼はそれを聞いて、その遠大さに気が少し遠くなる想いをしつつ、考えざるを得なかった。
ローマ帝国が太平洋岸に軍港を築くだと。
日本を刺激するのは間違いない。
日本は、北米共和国が太平洋沿岸に軍艦を配備するのを未だに許していない。
沿岸航行可能な警備艇ならば、海上警察任務から止むを得ないとして配備を認めたが。
それにしても、沿岸警備隊としてであり、海軍とは別組織という形を執らせた上でのことである。
それなのに、ローマ帝国が軍艦を太平洋に配備しては、日本を大いに刺激するだろう。
日本とローマ帝国の関係は歴史的経緯から微妙だったが、更にこじれねばよいが。
そんなことを羽柴秀頼が考えていると、別の文官が入ってきて、上奏を始めたようだ。
「シベリアの大地の調査ですが、現状報告を行います」
「うむ」
「シベリアの大地はほぼ無人地帯と言って良く、大量の獣がいるので、それを狩猟して毛皮を作ることで調査費用をある程度は賄える、と考えており、実際にそれで現状は回しております」
「うむ。シベリアの大地の調査は何処まで進んでおる」
「はい。基本的に北極海沿岸を拠点として、北極海に流れ込む河川を遡行するような形で調査を行うことが多いことから、南北がメインと言え、東西の調査は余り進んでいません。ある程度の河川、水路の調査を行い、それを地図上に落とし込んで、河川、水路が近接している処では連水陸路を作る等して、調査を行っております。シベリアの大地において、現地の住民と行き会うこともありますが、言葉が通じぬことが多く、意思疎通に苦労する事態が起きております」
エウドキヤ女帝陛下とその文官はやり取りをした。
羽柴秀頼は考えた。
本音ではもう少し南の経路も調査に使いたいのだろうが、モンゴル、トルコ系諸民族と基本的に対立関係にある以上、ローマ帝国としては北極海沿岸を拠点として行うしかないだろうな。
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