第70章―14
この世界の現在の第12部の科学技術レベルは、1950年代半ばに到達しています。
そのために魚雷艇がミサイル艇になり、更に対艦ミサイル等も実戦投入されてもおかしくない段階になっています。
そんなことがあった翌日、羽柴秀頼は女帝エウドキヤ陛下に謁見して、今後のローマ帝国内の運河建設計画について、自ら上奏しようとしていた。
とはいえ、それこそモスクワ運河建設完成記念式典についての様々な準備があったことから、女帝に対する上奏事項が何時か溜まっていたようで、予め上奏する時刻等について秀頼は伝えていたのだが、上奏者が多く、その内容も多い、ということで暫く待たざるを得なくなった。
その一方で、控える場所は秀頼の予想よりも女帝の傍近くであり、それなりに上奏内容が漏れ聞こえてきたことから、秀頼は退屈せずに済んだ。
いや、むしろ最近のローマ帝国の内外の情勢について、秀頼は色々と把握することが出来た。
「クリミア・ハン国との戦争ですが、オスマン帝国が本格介入を考えているとのことです」
「どうせハッタリであろう」
「しかし、オスマン帝国の軍事改革はそれなりどころではなく進捗しており、それこそ黒海の制海権や制空権確保について、我が帝国の海空軍は自信を持てなくなりつつあります」
「オスマン帝国海軍は、戦艦や空母を保有していないのであろう。戦艦を保有する我がローマ帝国海軍からすれば鎧袖一触に過ぎないのではないか」
「戦艦に対して、戦艦や空母で対抗するのならば、その通りです。しかし、昨今の技術進歩は戦艦と言えども、対艦攻撃機や軽艦艇、潜水艦等を組み合わせることで対抗できる、いや、むしろ維持費等まで考えるならば、戦艦の方が劣勢になるという意見が増えています。そうした現況から、オスマン帝国も強気な態度を示しつつあるようです」
「気に食わぬな。それで、オスマン帝国としては、我が国との全面戦争を意図しておるのか」
「いえ、それなりの国土をクリミア・ハン国が確保できるのならば、それで妥協したいと考えているとのことです」
「それなりとは」
「具体的にはクリミア半島全土は少なくとも確保したいと」
「ふむ」
女帝エウドキヤと、現在のローマ帝国の外相といえる立場にある森成利とのやり取りが、耳を澄ませているのもあるが、秀頼の下まで漏れ聞こえてきた。
「クリミア・ハン国が、クリミア半島を確保しては、そこにオスマン帝国の軍港や軍用飛行場が造られて、我が国による黒海の制海権や制空権確保が困難になるのではないか」
「その通りですが、オスマン帝国にしても、自国の安全保障の観点からすれば、クリミア半島が我が国の領土になっては座視できなくなるのも当然かと考えます」
エウドキヤと森成利のやり取りは、更に続いている。
秀頼は自らの知識と二人の会話の内容をすり合わせた。
クリミア・ハン国に対して、ローマ帝国は基本的に攻勢を取っている一方、クリミア・ハン国はオスマン帝国の武器等の支援を受けることでローマ帝国に懸命に抗戦している。
とはいえ、全般的な戦況はクリミア・ハン国が劣勢としか言いようが無く、クリミア半島内を何としても死守しようとクリミア・ハン国は策しているような戦況の筈だ。
この勢いに乗じて、ローマ帝国としては完全にクリミア・ハン国を滅ぼそうと考えていたようだが、オスマン帝国としては属国、同盟国に対する信義からして看過できない状況になったということか。
更に言えば、オスマン帝国自体の安全保障の危機にもつながりつつあるのか。
秀頼は、エウドキヤと森成利の会話は続いているものの、それ以上は耳を澄まさないことにした。
これは下手に聞き続けていては、よろしくないだろう。
自分の立場からして、聞いてはならないことだろうからな。
とはいえ、頭の片隅で今後のことを考えずにはいられなかった。
恐らく森成利の提言をエウドキヤ陛下は受け入れることになるだろうな。
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