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第70章―13

 そして、フョードル・ゴドゥノフと母のマリナは、モスクワ市内に借りた家に帰った。

 モスクワ運河建設工事に従事してそれなり以上の賃金を母子で稼いだとはいえ、流石にモスクワ市内に家を買えるだけの額では無かったのだ。

 更に言えば、借家住まいに成らざるを得ないのは、他にも理由がある。


「このジャガイモは、モスクワ近郊の農地で採れたものらしいよ。ジャガイモは免税になるので、モスクワ近郊の農地では人気らしい」

「そんな免税作物を作って、ローマ帝国政府は何を考えているのかな」

「二つ理由があるらしい」

「二つ?」

「一つはジャガイモの大幅な普及。モスクワ運河建設工事で、作業員等の食事に提供されることで、多くの作業員がジャガイモを食べ慣れたじゃないか」

「そういえば、そうだね」

「だから、ジャガイモを食べる人が増えて、そうなると増産する必要が出てきた。だから免税にした」

「確かに。もう一つは」

「ジャガイモの特性さ。連作ができないのさ。しかも、最低2年は間をあける必要があるらしい。だから、その間は、その農地を休耕地にしたり、他の作物を植えたりするしかない。だから、免税にしても大きな問題が起きない、とローマ帝国政府は判断したとの噂を聞かされたよ」

「そういうことか」

 母子は食事の合間にそんな会話を交わした。


「それにしても、次は何処に行かされるのかねえ」

「出来たら、自分は南に行きたいな。羽柴秀頼殿も、自分の言葉に肯かれていた。何しろ暖かいというよりも暑いところで生まれ育ってこられたらしいから」

「自分も秀頼殿と似たようなことを考えるよ。少しでも暖かいところの工事をした後で、寒いところには行きたいものだ」

「多分、明日にでも羽柴秀頼殿が、エウドキヤ陛下に上奏して裁可を求められると思うから、明後日にはどうなるか、大よそのことは分かるのではないかな」

「そして、様々な準備をして、目的地に出立か。ようやくこの家に馴染んできたのにねえ」

「少なくともあと数年は、定住させてもらえないでしょうね。未だに監視の目が光っているし、更に警護のことを考えると」

「もうお互いに妙なことは考えていないのだけど」

「周囲がどう考えているか、は別ですからね。羽柴秀頼殿も言われています。未だに私を密かに担ごうという動きがどうもあるらしいと」

「本当に止めて欲しいよ。エウドキヤ陛下に改めてお前も、私も忠誠を誓ったのにねえ」

 母子は食事を済ませた後、そんな愚痴を交わした。


 さて、ここで南か、北か、という話が出てくるので、この際に説明すると。

 モスクワを「五海の港」にするためには、まだまだ運河を建設する必要があった。

 大雑把に北から述べると、白海・バルト海運河、ヴォルガ・バルト水路、ヴォルガ・ドン運河の3つの運河建設が、更に必要不可欠だったのだ。


 そして、羽柴秀頼としては、次にヴォルガ・ドン運河の建設を考えている。

 それによって、黒海からカスピ海へ、更にモスクワへと外洋船が実際に来れるようにして、運河の力を周囲に実見させ、その上で北のヴォルガ・バルト水路、白海・バルト海運河と建設するのが妥当なのではないか、と羽柴秀頼は考えており、フョードルもそれに賛同していたのだ。


 後、1605年時点でも、一部の旧モスクワ大公国の貴族は、完全には女帝エウドキヤの打倒を諦めきってはいなかった。

 そして、エウドキヤを打倒した後で誰を君主に担ぐのか、という問題について、フョードル・ゴドゥノフはそれなりには人気があったのだ。

 だからこそ、フョードルにその気は全く無いのだが、ローマ帝国はフョードルに対してそれなりの監視と警護を行い続けており、フョードルは羽柴秀頼の傍に居続けていた。

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[良い点] 親子の小さな平穏、小さな幸せ。 [一言] 「ベルサイユのばら」の主題歌「薔薇は美しく散る」をちょっと思い出しました。 マリー・アントワネットやオスカル・フランソワは絶対に「草むらに咲い…
[良い点]  完全に地球をキャンバスに芸術を刻む土建屋の道に魅了されているフョードルくん、しかしマリナお母さんは飯場の荒い言葉に馴染んでしまったのかふたりの会話がどちらも男言葉っぽいもんだからどっちが…
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