第70章―3
だが、これだけの叛乱となると旧モスクワ大公国内が大混乱となり、大規模な農地の荒廃等が起きてしまうのは避けられないことだった。
そして、荒れた農地を再開発するのも一筋縄ではいかない事態が引き起こされるのも仕方なかった。
こうしたことから、ローマ帝国の内政担当の官僚、石田三成らは様々な方法を駆使して、旧モスクワ大公国内の農地の再開発等を行う事態となった。
更に言えば、このことは結果的にローマ帝国の東進を様々な意味で足止めすることにもなった。
ローマ帝国女帝のエウドキヤとしては、自らがモスクワ大公位に即位次第、速やかに東進して、いわゆる「タタールの軛」からロシア、ウクライナを完全に永久に解放しようと考えていたのだが。
叛乱が広範囲で長く続いた結果として、旧モスクワ大公国内の荒廃は極めて酷く、それこそ上里勝利大宰相以下のほぼ全ての文官、更には自らの夫の浅井亮政や息子のユスティニアヌスまでもが、旧モスクワ大公国内の荒廃からの復興を最優先にすべきである、と訴える事態が起きた。
更にユスティニアヌスは妻であるマリナ・ムニシュフヴナを始めとする周囲の面々(その多くが、エウドキヤへの直の提言を躊躇う文官)の助言もあって、母に訴えた。
「今、東進しようとしても、シベリア方面のまともな地図一つ無いのが現実ではありませんか。まず東方に関する様々な調査を行った上で、我が国は東進を図るべきでしょう。
その調査の時間の間に、我がローマ帝国の国力を涵養した上で東進を図るべきです」
「ふむ」
エウドキヤは息子の成長に目を細めつつ、そう答えた後で、息子に試問した。
「国力を涵養した上で、というが、具体的なことを考えておるのか」
「言うまでもありません」
息子のユスティニアヌスは、母に即答した後で続けた。
「叛乱に参加した貴族の農地は、まずは全て帝国、事実上は皇室のモノとされています。この農地を実際に耕させ、それなりに税金を収めた者に、その農地を自らの農地にするのを認めます」
「ふむ。確かに農地を払い下げるにしても、買い取る金が無い元農奴ばかりであろうしの。更に言えば、まともに働く気が無い者に後払いで農地を払い下げても、すぐに転売して何のために払い下げたのか、結果的に中抜きだけされるような事態が起きかねん。それからすれば、実際に耕させ、更に税金をきちんと納めた者に、農地を払い下げるべきであろう」
母子は更なるやり取りをした。
「とはいえ、すぐに再開発ができる農地ばかりならば、それで何とかなりますが、国力を増進させるとなると、道路や内陸水路を整備して流通網の整備も不可欠と考えます」
「確かにその通りだな。まともな道路や内陸水路が無ければ、国力の増進はままならぬ」
「更に言えば、羽柴秀吉殿が遺言で、モスクワは5つの海に通じるユーラシア大陸の首都になることが可能な都市であると述べられたとか。それをまずは実現しませぬか」
「5つの海に通じる都市か」
母子のやり取りは、夢に満ちたモノに徐々になった。
先年に亡くなった羽柴秀吉は、パナマ運河建設を成功に導いた後、ローマ帝国に招かれて帝国内外の水路の調査や建設、整備等に従事していた。
そういった調査の末に、モスクワはバルト海、白海、カスピ海、アゾフ海、黒海という5つの海に様々な河川や運河建設を組み合わせることで繋げることが出来る、との遺言を遺して秀吉はこの世を去っていったのだ。
更に言えば、その遺言は女帝エウドキヤ以下の多くのローマ帝国の要人に伝えられている。
こうしたことから、
「お前の言うのも最もだ。国内整備をまずは図るべきだな」
女帝エウドキヤは息子の提言を最終的には受け入れることにした。
ご感想等をお待ちしています。




