第69章―23
二条昭実首相の口調がくだけ過ぎ、というツッコミの嵐が起きそうですが。
そもそも義理のいとこ相手という身内での会話ですし、事実上は労農党に二条首相も入党していることから、労農党議員(その多くが労組役員や自小作農出身)と日頃の会話をしたためにくだけた口調に、このような場では二条首相は慣れてしまった、という事でお願いします。
伊達政宗は自らの与野党内の情報分析を、二条昭実首相に直に伝えた。
それを聞き終えた二条首相は、少し考えた後で口を開いた。
「ほぼ同じようなことを他の衆議院議員からも聞いている。ここは日系植民地の自治領化法案について、強引に労農党の衆議院議員に対して党議拘束を掛けてはならぬかもしれぬな」
「首相もそう考えられますか」
政宗も暗に二条首相に同意するのを認めて口を開いた。
「それで、どうやってこの件をやっていくつもりだ。満洲への駐兵問題は先送りできんぞ。そして、そのための陸軍、兵は何としても確保する必要がある。そうなると日系植民地の自治領化法案を法律化するのが、色々な意味で妥当なのではないか。党議拘束を掛けずに、法律化できるのか」
「これまでとは逆にやるのはどうでしょう」
「逆だと」
政宗と二条首相は、更に突っ込んだ話を始めた。
「これまで政府提出法案は、基本的に衆議院で先に審理されてきました。二条首相より前の3人の首相は全て衆議院議員であり、連立与党第一党の党首でもありましたから、衆議院に先に政府提出法案を提出して可決させ、その勢いで貴族院でも可決、法律として成立させる慣例ができました」
「確かにそうだな」
「しかし、憲法上、更に国会法上、衆議院に法案の先議権があるとは何処にも書いてありません。ということは、貴族院に先に政府提出法案を出して可決しても良いのでは」
「ほう。儂と同じことを考えたか。いや、お前から言えば伯母、儂から言えば義母と同じ考えというべきかもしれんな」
「えっ」
政宗は二条首相とやり取りをしつつ、驚くことになった。
二条首相に加え、織田美子伯母が同じ考えだと。
「義母が最初に言ってきた。今なら、皇室典範改正問題の余韻があるし、満洲への駐兵問題は明帝国への無言の圧力にもなることから、近衛前久殿も政府提出法案だからと言って、日系植民地の自治領化法案について反対するつもりは無く賛成の意向らしい。上手く行けば、貴族院は満場一致で日系植民地の自治領化法案を可決成立させることが出来るだろうと。そういった状況を作った上で衆議院にこの法案を提出してはどうか、というのだ。自分も中々の妙案と考えたのだが、お前も同じ考えになるとはな」
義理とはいえ従兄弟ということもあり、二条首相は明け透けに政宗に自らの考えを語った。
「成程、そうなれば党議拘束を掛けなくとも、衆議院を通る可能性が高まりますね。何しろ近衛殿は貴族院における保守党の代弁者ともいえる。そういった方が、貴族院で賛成の意向を示した場合、保守党の衆議院議員も政府提出の法案だからと言って、反対投票はしづらい」
「だろう」
政宗は自らの考えを述べ、二条首相も同意の言葉を吐いた。
「この際、義母の提案に乗ろう、と自分は考える。まずは貴族院に日系植民地の自治領化法案を提出して、できる限り急いで可決成立させる。そして、衆議院に法案を送るのだ」
「分かりました。それならば、労農党は党議拘束を掛けず、各議員の考えに任せる、保守党を始めとする野党も同様にされてはどうか、と密かに与野党を通して根回しをしましょうか」
「そうすれば、池田輝政らも欠席戦術は採りがたくなるだろうし、上手く行けば与野党協調の上でこの法案が可決成立したという形を作れるだろうな」
「では、その方向で動きます」
「よろしく頼む。言うまでもなく、すぐに労農党執行部には私から声を掛けるから、根回しで動くのは明日以降、お前自身で執行部の意向を確認してからだ」
「分かりました」
二条首相と政宗は合意に達し、お互いにその方向で協調して動くことになった。
そして、貴族院に日系植民地の自治領化法案は提出された。
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