第69章―21
ここで池田輝政の立場と主張を、改めて述べることにするが。
輝政は父の池田恒興の地盤を継いで、尾張の選挙区から労農党所属の衆議院議員になっている。
だが、尾張は言うまでもないことかもしれないが、木下小一郎前首相から木下秀次へと受け継がれた木下家の金城湯池であり、輝政は労農党では傍流、反木下派に結果的に属さざるを得なかった。
勿論、輝政とて労農党所属という自らの立場を弁えており、反党運動をするようなことは無いが、日系植民地の自治領化問題のような労農党内で意見が割れるよう事態があれば、素直に労農党執行部に従うことは少ない状況にあった。
更に上里愛が指摘するように、実は裏から義父の徳川家康の言葉があるならば、尚更に池田輝政は素直に労農党執行部の指示に従わないだろう。
大義名分もそれなり以上に立つ。
労農党内部の議員でさえ、日系植民地の自治領化を躊躇う者がそれなりにいるのに、党執行部は暴走して強引に法案成立を図るというのか。
せめて、党議拘束を外して、個々の議員の良心に任せるべきではないか。
そもそも昨年の衆議院総選挙の際の争点にすべきだったのに、争点化を労農党執行部も避けたではないか、それなのに総選挙が済んだら、日系植民地の自治領化を推進するのか。
民本主義を軽視するにも程があるのではないか。
政宗は、輝政が言いそうな主張を思い浮かべるだけで頭が痛くなってきた。
実際に輝政が言う通りなのだ。
本来ならば昨年の衆議院議員総選挙の際に争点として、各党が公約を掲げて論争すべきだったのに、党内の意見取りまとめに大政党になる程、苦労したことから、お互いの暗黙の了解で、各党はこの問題の争点化を避けてしまったのだ。
そのツケが今になって噴出している。
そして、輝政がそういった点を声を大にして主張すれば。
労農党執行部としては、二条昭実首相が政府として提出している法案である以上は、準与党として党議拘束を掛けて賛成投票をしたいところだが。
世論の動向が微妙である以上、政宗の見る限りは五分五分の確率で、世論が輝政の主張に煽られる可能性は否定できない。
輝政が明確に二条首相が提出した法案に反対投票をするというのなら、労農党に対する反党行動だと批判を浴びせて、労農党からの除名処分等ができるだろうが。
それこそ衆議院議員総選挙前から議論が巻き起こっていたのに、総選挙では争点から棚上げされていた事案では無いか、だから、衆議院本会議の採決の場において、せめて党議拘束は外せ、それさえしないのならば本会議採決の場を欠席すると輝政がいうのを、労農党に対する反党行動だとまで労農党執行部が責められるのかというと。
流石に政宗もそこまで責めることについては躊躇わざるを得ないのだ。
「難儀だな」
流石の政宗も愚痴るような口ぶりで、実際に口に出さざるを得なかったが。
愛は、更に難儀な状況にあるのを示唆した。
「そういえば、保守党を始めとする野党も結構、内部が割れているようですよ」
「どんな風にだ」
「1602年の選挙前に高齢を理由に、保守党の党首から北条氏政殿が引退して、保守党は内部抗争の末に尼子勝久殿が新たな保守党の党首になられたではないですか」
「ああ、言われてみれば、かなり酷い党内抗争だったな。島津亀寿も党首選に立候補しようとしたが、肝心の自らが率いる島津派内部から、
『女性が保守党党首というのはどうなのか』
という意見が出て、亀寿が逆ギレする事態になって島津派が空中分解寸前にまでなり、結局は党首選への立候補断念に追い込まれたとか」
「島津派は九州出身の議員が多いせいか、男尊女卑が一皮むけば結構強いですからねえ」
愛と政宗はそんなやり取りをした。
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