第69章―18
そして、肝心の幽斎の談話、取材への対応だが、既に織田美子と打ち合わせた内容通りで、
「戦時ならばともかく、日本対建州女直戦争が終わった後の平時の兵力確保に、日系植民地の協力を行って欲しいと言われても。それなりの見返りが日系植民地に認められて然るべきではないでしょうか」
「どんな見返りが必要と考えられますか」
「例えば、兵力を提供する日系植民地に完全な自治権を与えて自治領にする」
「完全な自治権の具体的な内容は」
「軍事権や外交権も、それなり以上に自治領に権利として認めて欲しい、ということです」
幽斎は、ある新聞記者とやり取りをした。
「日系植民地と言えど、日本の一部です。積極的に兵の提供をして然るべきではないでしょうか」
「それならば、日本本国の政治に日系植民地も関与して然るべきでは。具体的には衆議院議員の選挙権や被選挙権が、日系植民地で日本の国籍を持つ住民にも認められて然るべきでしょうに」
「いや、法律によって衆議院議員の選挙権や被選挙権は本国の日本人に限られていますし、本国と植民地間の距離という問題があります」
「昔のように汽船で本国と植民地が行き来していた時代ならともかく、今では日本本国からすれば地球の裏側と言える南米植民地のブラジル州でさえ、2日、48時間以内に片道旅行できる時代です。そんな時代になっている以上、衆議院議員の選挙権や被選挙権が日系植民地に住む日本国籍の住民に認められるのがおかしなことでしょうか」
「確かにその通りかもしれませんが」
幽斎の舌鋒は、ある新聞記者を防戦一方に徐々にさせた。
「とはいえ、これまでの経緯からしても、日本本国の住民にしてみれば衆議院議員の選挙権や被選挙権を日系植民地の住民に認めるのは心理的にキツイものがあるでしょう。それならば、せめて自治領化を日系植民地に認めるべきではないか、と私は考えますが如何」
「確かに一理ありますね」
「それに日系植民地にしても、平時にも関わらず兵を提供するという代償を払うことになるのです。そういったことからすれば、尚更に自治領化を日本本国政府は認めるべきでしょう」
「仰られる程にその通り、と考えます」
幽斎の説得力のある論理は、その新聞記者を最終的に納得させ。
幽斎の意見に賛同するような意見をその記者は付けて、これを大きな新聞記事にさせた。
そして、こんな大きな新聞記事が流れては、それに対応した動きも日本国内外で起こるのは当然と言っても過言では無い。
兄の伊達政宗から予め内報されていたこともあって、ブラジル州の伊達秀宗が、
「日本本国から要請があれば、ブラジル州としても兵を平時でも満洲に派遣することはやぶさかではないが。それには何らかの見返り、例えば、ブラジル州の自治領化が認められて当然だ」
と発言するような事態が起きた。
又、直江兼続が、
「主の上杉景勝殿にしても、この件は本当に悩んでおられるようで。満洲問題の為に平時から徴兵制を敷くのは難しい。だから、日系植民地に兵を派遣してもらい、ある程度の代償を認めるのも止むを得ないのではないか、と言っておられましたね」
と発言する事態も起きた。
(直江兼続は保守党の有力議員の上杉景勝の秘書に過ぎないが、上杉景勝が無口なことから、その代弁者として新聞記者等の間では取り扱われていた)
ともかく、こういった日本本国の国内外からの発言が相次ぎ、新聞等で報じられては、日本本国内外の世論も無視することはできない。
こうしたことから、日本対建州女直戦争が終結したとき、それなりに満州に駐留する陸軍の兵の問題について予め論議が日本の国会議員及びその内外で尽くされているといっても過言では無かったのだ。
直江兼続というか、上杉景勝にしても、それなり以上の識見をもって、日本の政治を考えているのです。
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