第69章―17
ともかく、事情を知らない部外者、多くの一般庶民等から見れば、この時の衆議院の予算委員会における野党議員の質問から来るトラブルは、何でここまでこじれるのだ、という事態に徐々になった。
その発端は、野党の有力衆議院議員である島津亀寿が、武田勝頼陸相に日本対建州女直戦争終結後の計画について問いただしたことで、武田陸相の答弁自体はそうおかしくはなかったが、それに伊達政宗農相が口を挟んだことから、
「伊達農相は発言を撤回し、謝罪せよ」
「伊達農相が発言を撤回して謝罪する等の必要は無い」
との論争が起きる事態に至ったのだ。
更にこういった事態が起きれば、その論争の発端となった問題、日本対建州女直戦争終結後に生じるであろう満洲への駐兵問題についても注目が集まり、報道が為されるのは当然のことだった。
そして、陸軍の最低でも1万人、おそらく2万人規模の増員、現在の日本陸軍の規模である約10万人からの最低でも1割、下手をすると約2割もの増員となると。
この当時の日本本国の人口は1600年現在で約2200万人台とされており、人口増が続いている日本本国の現実から、1605年には2400万人を超えてもおかしくないとはされていたが。
そうはいっても、現在の日本陸軍は約10万人規模であり、海軍は約5万人規模を誇っている。
つまり、人口の約0.6から0.7パーセントが軍人という事になるのだ。
それくらいならば大した問題にならないだろう、と思われそうだが。
メタい話になるが、人口減少傾向にあるとはいえど人口1億を超えている現在の日本でさえ、現実の自衛隊員約25万人を質量共に充実したモノにするのに苦労している現実からすれば。
この世界の陸海軍軍人約15万人を最低でも1万人、おそらく2万人規模も増員するとなると、大問題が引き起こされるのは当然のことで。
気の早い者は徴兵制の導入が必要だ、と騒ぐ事態が起きることになった。
更に言えば、この世界の軍人は、軍人という職業上からキツイ、汚い仕事とみられがちで、日本本国全体が何だかんだ言っても景気が基本的に良く、民間や官僚等の仕事もあることから、軍人志望者の質量、特に兵に関しては短期募集ということも相まって問題が生じている現実があった。
こうしたことから、日本対建州女直戦争後に陸軍の増員が必要という発言を陸相がしたことは、大問題が起きるのでは、という意見が徐々に起きることになり、更には日系植民地に協力させるべきでは、という意見、世論が日本本国内に起き出すのも当然のことだった。
そして、こういった事態になれば、目端の利く者、新聞記者等が様々な著名人に意見を求めだすのもある意味では当然の流れだった。
更にいえば、日本本国内に日系植民地の著名人が滞在していれば、その人に意見を聞こうとする者が相次ぐのも当然のことだった。
そうしたことから、細川幽斎の下に新聞記者が日参する事態が起きた。
さて、肝心の幽斎だが。
「私は豪州の政界から引退した楽隠居ですよ。そもそも日本本国に来たのも、古今伝授を八条宮殿下にお伝えするためで、その後も文化関係の交わりを行いたいと日本本国にいるだけです。そんな楽隠居にそういった問題を聞かれても困りますなあ」
と新聞記者を煙に巻くような態度を基本的に執った。
勿論、これは幽斎なりの擬態である。
下手に積極的に言っては、却って報道のタネにならないからだ。
言いたくないことを敢えて自分に言ってくれた、これは報じる価値がある、と相手に感じさせた方が大きな報道になるのだ。
そして、このことは幽斎の読み通りに新聞記者等の取材を過熱させ、幽斎の談話を大きく取り上げて報じる事態になった。
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