第69章―16
そんな裏工作を衆議院議員に対して伊達政宗が行っている頃、織田美子は公家、貴族院議員や財界の面々等に対する裏工作に勤しんでいた。
幾ら政宗が将来の首相候補と目されていても、所詮は衆議院議員2期目の若手衆議院議員である。
公家や財界の要人相手となると、織田美子が動く方が遥かに効力があった。
尚、陸海軍部内は、(言わずもがなのことかもしれないが)この間に上里清が根回しをしている。
そして、そんな裏工作が行われた後、衆議院の予算委員会における質疑応答の場で、
「対建州女直戦争に対する戦後の見込みをお伺いしたい。戦後に満州をどうしようと考えているのか。現時点における特に陸軍のお考えを伺いたい」
そう島津亀寿が発言して、武田勝頼陸相が答えることになった。
「陸軍としては、対建州女直戦争の後、暫くの間は満洲に兵を置く必要があると考えております。満洲情勢ですが、明帝国、建州女直、海西女直といった勢力が分立し、周辺の国や諸勢力までも見れば、李氏朝鮮や野人女直、モンゴルといった存在がある。こういった中で日本と建州女直が戦争をして、建州女直の軍事力が失われれば、現在のそれなりに分立して安定した状況が損なわれ、日本が撤兵した後、建州女直が周辺国の攻撃によって滅び、日本の挙げた戦果が台無しになる危険がある。そうしたことからすれば、ある程度の兵を満州において、建州女直が立ち直るまで庇護する必要があると考えます」
武田陸相は得々と述べた。
「ある程度の兵とは如何ほどですか」
「戦後の情勢によって変わりますが、少なくとも1万程度は必要と現状では考えています」
「1万以上となると、陸軍の平時兵力の増加が必須では」
「そうなります」
「戦後の焼け太りを陸軍は考えているということですか」
そこまで、島津議員と武田陸相の会話が進んだ時点で伊達政宗農相が口を挟んだ。
「焼け太り?。女子が陸軍を誹謗するのか。発言を撤回せよ」
その野次るような口調から、与野党議員共に、
「何を言う」
「焼け太りを焼け太りと言って何処が悪い」
等々と相次いで発言し、予算委員会の場は騒然とする。
予算委員長が、
「静粛に、静粛に」
と発言して双方の発言の自粛を求める事態が起きたが、中々収まらない。
更には予算委員長が、
「伊達農相の発言は余りと考えるので、謝罪を求めます」
と言ったことに対して、伊達農相は、
「陸軍を誹謗した女子に謝罪する必要は全く無い」
と平然と答弁し、それに島津議員以下の一部の野党議員が激昂して議場で抗議する事態が起きた。
そして、この事態はそれこそ新聞の三面記事にまでなった。
だが、これはいわゆるプロレスも良いとこだった。
「よくも言ってくれたの」
「本当にすみません」
島津亀寿からの電話に、上里愛は実際に頭を下げながら言っているが、相手に顔が見えないのを良いことに実際の表情は笑っている。
尚、片倉小十郎の方は、二条首相以下の与党の有力議員の下へ、伊達農相のやらかし、この発言への詫びを入れるために頭を下げて回っている。
「まあ、良い。これだけの騒動になれば、満洲への駐兵問題について、新聞も取り上げるだろう」
「更に言えば、新聞記事で取り上げられない方が不自然でしょうね」
「そして、一度、新聞記事で取り上げられれば、色々と日本本国や日系植民地で、その記事を読んだ面々から声が挙がるのは必定といえるだろうな」
亀寿と愛は立ち入った話をした。
「それにしても、政宗は用心深いな。電話での話さえ拒むか」
「細部こそ拘るべき、と主(政宗)は言っております」
「まあ、良い。こちらにも都合がある。政宗が電話での詫びさえ拒否した、と言うぞ」
「それで構いません」
亀寿と愛は話し合った。
忘れておられる方もおられると思うので、少し補足。
島津亀寿の夫は島津忠恒であり、現役の陸軍士官です。
更に義父の島津義弘は前陸相であり、実父の島津義久は元首相になります。
それなのに伊達政宗は、そんな島津亀寿に「女のお前が陸軍のことに触れるのは片腹痛い」と言うようなことを国会の場で言ったので、他の野党議員までが抗議する騒動が起きることになりました。
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