第69章―15
織田美子と細川幽斎が密やかに合意に達した少し後の頃、伊達政宗も与野党の有力議員に色々と裏で働きかけをしていた。
「日本対建州女直戦争の後のことですか」
「何でお前が口を開くのだ」
「第一秘書の私が主の意思を代理して話して、何処が悪いのですか」
「儂は上杉(景勝)殿の意思を直に伺いたいのだ」
「違っていたら、主が口を挟んできますよ。何の問題もありません」
「立場を弁えろ」
直江兼続と伊達政宗は口論をする羽目になった。
尚、上杉景勝は直江兼続と並んで座って、事実上は伊達政宗と対峙している。
とはいえ、こんなやり取りをしていては話が少しも進まない。
政宗は怒りをこらえ、景勝に話を振った。
「ともかく日本対建州女直戦争の戦後の事を、気が早いが話し合いたい」
「建州女直に対して、麻薬禁輸を条約で応じさせて、日本兵は大陸から完全撤兵すべきですな」
「だから、何でお前が言うのだ」
「先程、言った通りですが」
政宗と兼続は口喧嘩をした。
政宗は考えた。
ともかく景勝は言質を取られたくないようだ。
最悪の場合、兼続が勝手に言ったことだ、で景勝は済ませようとしている。
景勝が無口なのと、兼続の口が回ることから、この二人は完全に役割分担をしている。
「分かった。それが上杉殿のお考えと承ろう」
「それでは、そういうことで」
政宗の言葉に兼続が答え、結局、景勝は一言も発せずにやり取りは終わった。
さて、別の日に政宗は吉川広家と会っていた。
「日本対建州女直戦争の戦後のことだが、戦後に満州に兵を常駐させる必要がある、と陸軍は考えているらしい。吉川殿の忌憚のないお考えを伺いたい」
「どれくらいの兵ですか」
「少なくとも1万、できれば2万」
「幾ら対外積極主義の中国保守党でも、そんな話を振られては、殆どの議員が反対と言いますな。それだけの人員増は人口面から難しいですし、費用の面まで考えれば不可能と言って良い」
「だから、発想を変えた。それだけの兵を日系植民地から出してもらってはどうか」
「日系植民地からですか」
政宗の言葉を、取りあえずは広家は前向きに受け止めた。
「日系植民地と言っても、実際問題として植民地それぞれで事情が異なります。そういった辺りについては、どのように考えておられますか」
「自分としては豪州や中南米、南アフリカと言った辺りを、兵を派遣してもらう植民地として考えているのだが、どうだろうか」
「悪くはないでしょうな。特に豪州等は北米独立戦争の際には本国の要請に基づいて、北米に派兵したことがありますから」
広家は政宗に問いかけ、政宗の答えに広家は唸るように答えた。
「ですが、戦時ならともかく、平時の常駐兵力の負担となると、日系植民地の反発をそれなり以上に覚悟する必要がありそうですが、その辺りはどう考えますか」
「自分としては、親の関係もあるから、兵を派遣してくれる植民地を自治領にしても良いと考えるが。つまり、外交権や軍事権もその植民地にそれなりに認めるということだな」
「余りにも思い切った提案というか、考えですな」
広家と政宗のやり取りは続いた。
「とはいえ、それくらいの譲歩を本国が示さないと、日系植民地も満洲への派兵に応じるとは言わないでしょうね。これ以上のことは、実際の日本対建州女直戦争が終わった後、実務的な話し合いをするという事で如何です。勿論、日本本国の有権者及び植民地の住民が、この件で活発な議論をすることは極めて望ましい事だと考えますが」
広家は政宗に最後は言い、政宗はそれに同意することになった。
そんな感じで、政宗は色々と与野党を問わずに衆議院議員に密やかに働きかけて回った。
そして、このことは密やかに衆議院議員の意識を高めた。
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