第69章―14
「とはいえ、ローマ帝国の東進が本当に起きた場合等を考えると、日本本国の安全保障上、それを看過することはできない。だから、日本本国としては、明帝国以外の同盟国を大陸において求めざるを得なかった。更に考えれば、そういった場合に、日本本国として信頼できる同盟相手としては、いわゆる北方遊牧民族国家を選ばざるを得ず、昨今の情勢から、建州女直が最もその同盟相手として妥当と考えた次第。更に言えば、一度は交戦した上で同盟を締結しないと、建州女直が素直に日本本国の要請に従わないとも考えたのだけど。これだけ言葉を尽くせば、納得してもらえるかしら」
「ふむ。裏では何かがある気がしますが。それなりに筋が通っておられますし、聞いては成らない話が裏ではありそうだ。それ以上は聞かずに、その方向で日本本国が動くというのには納得しましょう」
「本当に話が早くて、色々と助かるわ」
織田美子と細川幽斎は、お互いの腹に一物どころではないやり取りをして、微笑み合った。
「それで、何時、それを私は公言すれば良いのでしょうか。こういったことは時機を見極める必要があり、それを誤っては思わぬ事態が起きそうですが」
「もう少ししたら、対建州女直戦争について野党の衆議院議員の誰かが国会で政府答弁を求めることになっている。更にそれに対する政府答弁から、色々と物事が動く予定よ。対建州女直戦争の戦後をどう考えているのか、兵を満州に常駐させる必要がある、その兵は何処から捻出するのか、日系植民地に協力を仰がねばならないのではないか等々ね。そうしたら、貴方の下に勝手に誰か、新聞記者が行くことになるでしょうね。貴方は色々と有名だから」
幽斎の問いかけに、美子は答えた。
「確かに私は日系植民地の豪州の人間で、北米独立戦争では戦場の臭いを実際に嗅いだ身です。更に自ら言うのも何ですが、文化人としても名高い。そういった騒ぎが起きれば、貴方が何も動かなくても新聞記者は私の下に取材に来ておかしくないですな。いや、誰も来なければ、無能揃いもいいとこだ」
「そうでしょう。その際に、豪州の住民として、兵を派遣しても良いが、北米独立戦争とは状況が色々と異なる。平時の派遣兵力を日本本国が求められるならば、それなりの見返りが欲しい、と貴方が言うのは当然だし、それを厚かましい等と、頭ごなしに否定できる人は極少ないわ」
「とはいえ、それを日本本国の世論が受け入れるかは別。それに戦争が始まる前でもある。だから、取りあえずは日本本国内に議論を巻き起こしたいという訳ですか」
「いえ、そこまでの事態が起きれば、日系植民地の多くでも、この件の議論が始まると私は考えるわ。自治領化という事実上の独立を果たす絶好機が起きる訳だから」
「確かに」
幽斎と美子は、更に話し合いの内容を深めた。
「ともかく、日本本国と日系植民地それぞれで、この件、日系植民地の今後についての議論をまずは喚起する必要があるわ。色々と日本本国と日系植民地の関係については、問題が生じつつある。そして、それが本当の破局に達する前に、この問題は解決しないといけない。何時、破局が生じるのか、正確なところは分からないけど、私は北米独立戦争の時のように、気が付いたら、完全に手遅れという事態は引き起こしたくないの。そうなるとまずは議論を起こす必要がある」
「確かにその通りですな」
幽斎は美子とやり取りをし、美子の裏の考えを察した。
美子は異父妹の和子と対立し、結果的に北米独立戦争にまでなったのを今でも悔やんでいるのだ。
「分かりました。私がやれる限りのことをやりましょう」
「よろしくお願いするわ」
幽斎と美子は完全に合意に達した。
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