第69章―7
とはいえ、こういった辺りは本当に内々で進めないといけないことであり、それこそ身内同士のつながりを駆使して、隠密裏のやり取りが諸処では行われることになった。
「伯母上と叔父貴から言われては是非もないが。弟(の伊達秀宗)に日系植民地の自治領問題についての旗を振らせたかったな」
「何かありましたか」
この日系植民地自治領化問題の発端があって、3日後に伊達政宗農水相は第一秘書の片倉景綱に愚痴る羽目になっていた。
尚、政宗の第二秘書の上里愛は適当な用事を与えられて、この場には不在である。
「ここだけの話にしてくれ」
「はい」
「上里清陸軍省軍務局長から、内々に相談を受けた。日本と建州女直との戦後に2万人程、陸軍を増員する必要がある。それに協力して欲しいとな」
「それで」
「日本本国だけで2万人も増員するのは困難だ。だから、日系植民地からその人員を出してもらうべきではないか。その代償として、日系植民地を自治領にするのはどうか、とな。そう自分は提案した」
「悪く無い提案の気がしますね。実際、私自身も中南米植民地の多くの住民が、日本本国から独立をしたいとの希望を抱きつつあるという話を聞いています。とはいえ、単純に独立を日本本国の多くの有権者が認める訳が無い。そういったことから、バーター取引というと言葉が悪いですが、将兵を提供する代わりに自治領にするのを認めろ、というのは妥当な落としどころではないでしょうか」
「だろう」
政宗と景綱は密談をした。
「それで、一晩考えさせてくれ、と上里の叔父貴がいうから、ハイハイと言って帰宅したら、その日の内に伯母上の織田美子殿から電話があった。この件だけど、植民地の自治領化を提案するのは細川幽斎殿がするから、(政宗の)弟の伊達秀宗を動かすようなことはしないようにとな」
「何でそんな話に」
「上里の叔父貴が伯母上に相談したからに決まっている。更に言えば、弟(の秀宗)を動かしては、自作自演を疑われる。だから、完全な第三者を動かすべきだ、と伯母上に言われてな」
「ああ、確かにその危険は否定できませんね」
「腹立たしいが、伯母上の言うのはごもっともとしか、言いようが無い。更に言えば、翌朝に叔父貴と会った際にも同じことを言われては、黙らざるを得なかった次第だ」
政宗は憤懣を秘めた声で言い、景綱は溜息を吐いた。
とはいえ、それで済ませる訳にはいかない。
景綱は(絶対に溜息が顔に出ないようにしながら)政宗を宥めることにした。
「気持ちは分かりますが、それ以外のことについては釘が刺されていないのでしょう。他のことをされればよいのではないでしょうか」
「確かにそうだが」
「大方、それ以外のことについても、色々とやられる気なのでしょう」
「その通りだ」
景綱の言葉に機嫌を直した政宗は、島津亀寿を使っての国会でのやり取り等の構想を得々と語った。
景綱は、それを聞きながら考えた。
それなりどころではない構想と言えるが、二条昭実首相の内諾を少なくとも取ってから動かないと、それこそ閣内不統一という事態が起こりかねない話では無いだろうか。
そう考えた景綱は、政宗を諫めるような言葉を吐いた。
「良きお考えと私も考えますが」
「そうだろう」
「二条昭実首相には、予め実行前に相談されるべきかと」
「勝手働きはダメというのか」
「それこそ陸軍兵力を万単位で増やそう等、陸軍内部の内諾は上里清軍務局長に任せれば大丈夫でしょうが、政府、内閣内の意思統一無しに勝手にして良い話ではないでしょう」
「言われればそうか」
政宗の言葉に景綱は考えた。
本当に勝手働きをするつもりだったようだ。
それはともかく、政宗は二条首相にこの件を伝えることにした。
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