第69章―6
だが、それをどうやって行くべきか。
織田美子は頭を回転させた。
甥の伊達政宗の考えの発端は良いだろう。
野党第一党の有力議員の国会質問から、世論を喚起する。
政治を動かす発端として、まずは合格点を与えても良い。
だが、その後はどうか。
政宗は弟の秀宗を動かすつもりのようだが、自作自演を疑われる危険が高い。
そうなると他の誰かを動かす必要がある。
秘密裏に動かすとなると、公然と連絡を取ってもおかしくない相手で、それなり以上の有力者である必要があるが、そんな人物が日系植民地にいるだろうか。
更に言えば、独立論を唱えてもおかしくない人物である必要がある。
美子の頭の中で、日系植民地の有力者の名前と顔が相次いで浮かんでは消えた末に。
「細川幽斎殿に自治領の話をしてもらうのが一番でしょうね。先日、八条宮殿下に古今伝授を伝え終わっていて、この際に日本本国で様々に知識をお互いに伝えあいたいと言われ、まだ京におられる筈」
「細川殿が」
「知らなかったの。あれ程の方なのに」
「いえ、姉上が細川殿と古今伝授の事を知っているのが意外で」
「失礼ね。宮中女官の長である尚侍を務めた私が、古今伝授を知らない筈が無いでしょ」
「宮中での歌会があった際に詠んだ和歌は全て代作だったという噂がある姉上が、古今伝授を知っているのが本当に意外です」
「代作とは失礼ね。ちゃんと自作していたわよ。五七五七七で作ればよいのだから」
「その割には、宮中での歌会での姉上の和歌を読んだ覚えがありませんが」
「正親町天皇陛下から、尚侍の和歌は全て秘密にしておこう、と仰せがあってそれに従っただけよ」
「分かりました(要するに、とても和歌とは言えない代物だったから、正親町天皇陛下が気を遣って、姉上の和歌は全く発表されなかったのか)」
「何か物凄く失礼なことを考えていない」
「いいえ、考えていません」
姉弟はいつかズレた会話をした末に。
「話を戻すわ。細川幽斎殿ならば、北米独立戦争で実際に戦場に赴いたことがある。そして、その際に豪州兵が戦って死傷したのを語れる。豪州は日本本国が必要というのならば、又、兵を出しても良いだろう、だが、それならばそれなりに見返りを認めて欲しい、具体的には豪州を自治領にして欲しい、と細川殿に言っていただくのよ」
「確かに実際に北米独立戦争で戦ったことのある人物がそういった発言をすれば、新聞記者が飛びつくでしょうね。しかも、著名な文化人としての顔も持たれている人物だ。尚更に話題性があるでしょう」
姉弟は会話した。
「それにもう一つの利点がある」
「それは何でしょうか」
「豪州は言うまでもなく、足利家を始めとする旧室町幕府の面々が開拓した植民地で、日本本国の有権者の多くにしてみれば、日本本国にずっと忠誠心が篤い植民地とみられてきた。そういった植民地の有力者が自治領化の旗を振れば、日本本国の有権者の多くも、日系植民地の住民の多くが自治領化の希望を持っていると考えるようになる。その一方で、植民地開拓に苦労を重ねてきたのだから、要望を聞いてあげるべきだ、とも日本本国の有権者の多くも考えやすいでしょう」
「確かにそうですね」
「細川幽斎殿には、私の方からそれなりに手を打っておくわ。甥の(伊達)政宗には、私も協力すること、それから、秀宗を使っては自作自演を疑われるから、私が植民地関係には手配りをすると貴方からも私からも伝えることにしましょう」
「それが秘密保持のためには妥当でしょうね」
「それから、二条昭実首相には私から伝えておくから。そして、根回し等を考えれば、実際に法案等を作るのは1602年の衆議院選挙の後辺りが妥当でしょうね」
姉弟は話をまとめた。
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