第69章―5
伊達政宗農水相は叔父の上里清軍務局長と密談を続けた。
「この際、お手盛り答弁を衆議院でしましょう」
「誰を使う」
「島津亀寿議員を使うべきかと」
「野党第一党の保守党の有力議員の一人だぞ。乗ってくれるのか」
「私の秘書の上里愛を介して何とかします。私が直に会っては秘密が保てませんから」
(尚、この時点では、まだ広橋姓を上里愛は名乗っていません)
「ふむ」
「それに与野党が連携しているとは、誰も考えますまい」
「普通はそうだが、島津議員が乗るのか」
「やってみる価値はあるかと。ダメなら他の議員を当たります」
二人のやり取りは、それなりどころではなく進んだ。
「それで、どんな質問を島津議員に頼むのだ」
「建州女直との戦後についての構想に関する質問をお願いします。日本が勝った後の頃を何と考えているのか。日本軍を満州にそれなりの規模で常駐させる必要が生じたりはしないのか。そうなった場合の兵の確保について等です」
「ふむ。島津議員がしても全くおかしくない内容だな。というか、責任ある野党第一党の有力議員ならば、当然にして然るべき質問だ」
「そこで、武田勝頼陸相に答えて言ってもらうのです。満洲に軍隊を常駐させる必要がある。万人単位の陸軍の増加を認めて欲しいと」
「そんなことを国会で明確に言ったら、議場が荒れる可能性があるぞ」
「それが本当の狙いです」
上里軍務局長の言葉に、甥の政宗は悪い顔をしながら言った。
「議場が荒れたら、新聞やラジオでそれが流れます。更に、その理由も報じられます」
「ふむ。それで、世論を喚起するという訳か」
「そうです。万人単位の陸軍の将兵の増加、予算も問題だし、人員確保も難題になる。そこで、弟の秀宗辺りに声を挙げてもらう。植民地がその兵を提供しても良い、その代わりに何らかの見返りを与えて欲しい、具体的には同盟国として独立したい、との声を挙げてもらうというのはどうかと」
「ふむ」
甥の悪だくみに、上里軍務局長は暫く考え込んだ。
「一晩、考えたい。その上で答えたいが良いか」
「構いませんよ。でも、その辺りがいい気がしますよ」
甥に上里軍務局長は言い、そして、甥は叔父の下を去った。
甥の姿が視界から消えた後、上里軍務局長は一本、電話を掛けた後、電話相手に会いに赴いた。
「何で政界から引退して孫や曾孫の面倒を見るのが幸せな好々婆を政界に引き戻そうとするのよ」
「酷い冗談ですね」
「姉を姉とも思わない態度にも程があるわね」
「何とでも言ってください。私にしてみれば、それどころではない話なのです」
上里清は義姉の織田美子に、建州女直との戦争後に日本軍を満州に展開させる必要があること、その規模は2万人程度になると様々な理由から見込まれること、等々を話した。
義弟の話を聞き終えた美子は、
「私が貴族院議員とはいえ、そんなことを私に軽々しく話してよいの。私が動かないと考えたの」
「さっきと言うことが全く違いませんか」
「酷いわねえ。義弟が姉を頼ってきたら、義弟の為に私が動かない訳が無いじゃないの」
「本当に舌が二枚どころか、三枚ありませんか」
「この間には義理の息子(二条昭実首相)に、尾が9本どころか13本はあると言われたわね。本当に何で親族からそんなに悪口を私は言われるのかしら」
「鏡を持ってきましょうか」
美子がどこまで本気で、どこまで冗談を言っているのか。
清は相談相手を間違えたか、と真面目に考え出したが。
美子はそれなり以上に頭を回転させていた。
これは確かに良い口実になるかも。
日本本国の有権者の多くが日本本国が兵を出す代わりに植民地が兵を出すというのならば、植民地が自治領になるのを認めても良い、と考えるのではないだろうか。
この辺りは第一次世界大戦でオーストラリアやカナダ等が英本国の求めから大規模派兵に応じたことから、自治領化を本国世論が認めたという史実を参考にしています。
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