第68章―28
話がいつの間にかズレてすみません。
上里清と美子の父娘の会話の場面に戻ります。
いつの間にか、本来の話、場面から大きくそれてしまったので、本来の話、場面の場に戻ると。
上里美子は実父の上里清の悪い酒を何とか止めて、養母の理子を交えて、ヌルハチ率いる後金国(最も日本人の多くが満州国と呼んでいる現実があるが)の近況の話を父にさせることに成功していた。
「色々と満州を巡る話を私が聞けば聞く程、ヌルハチ殿は名君のようですね。女真族の統一を果たして、後金国を建国した末に、更には軍隊を現代のモノに改編して、国内の農業を始めとする産業を振興するとか。それに中国本土や朝鮮半島からの農奴が活躍しているのは、愛義姉さんのことがあるから、色々と私は批判的に考えざるを得ませんが。そうはいっても何れは農奴から小作人に、農業労働者に変わっていく見込みとか。それにしても、満州に大油田があるかもしれない話が本当になるかもとは、本当にそういったことから起きた天祐の気が私にはする話です」
「まあなあ。日本の今上陛下は実際のところは政務を首相等に完全に委任して、「君臨すれども統治せず」に徹していることからすると完全に別格の存在で、政務を直に行っている世界の君主としては、ヌルハチ殿は名君の双璧の一人だろうな」
娘の美子の長広舌に対して、話す内に自然と酒を飲む手を止めた清はそこまで言った。
「双璧ということは、もう一人は誰ですか」
「言うまでもない。ローマ皇帝のエウドキヤ陛下だ」
「確かにその通りですね」
父と娘は更にやり取りをした。
美子は改めて考えた。
結果的に日本本国政府の想いに反した日本の人や技術等の様々な支援があったとはいえ。
亡国していた(東)ローマ帝国を復興させ、コンスタンティノープルやエルサレムを奪還したのを皮切りに、ローマを再征服して東西キリスト教会の統合を果たしただけでも、世界史に永久に遺るだろう名君なのに。
それに加えて、ウクライナやロシアまでも征服していて、更に何れは東を目指すのではないか、という噂が世界中に流れていて、かつてのローマ帝国の最大領域を凌ぐ大国家になるのでは、という領域にまでローマ帝国を拡大したのがローマ皇帝のエウドキヤ陛下なのだ。
私の知る限り、史上空前の名女帝、女王と言ってよいだろう。
最も現在は余りにもローマ帝国が急拡大したために、国家全体の再編成に女帝エウドキヤは勤しまないといけない状況らしいが。
それはほんの20年程であれだけの急拡大をローマ帝国がした以上は仕方ないとしか、言いようが無い話だろう。
というか、そういったことをしないと、それこそ宗教的な権威までもローマ皇帝は事実上は併せ持つとはいえ、何処かの地域が分離独立と言った動きを起こしかねない。
(ローマ帝国は表向きは政教分離を唱えており、宗教と政治はお互いに絶対不介入と謳ってはいるが。
実際にはローマ皇帝を始めとする帝室の面々は東方正教徒であり、ローマ帝国内においては東方正教会が国教に準じる立場にある。
そして、東方正教会の公会議も、カトリック教会のローマ教皇も東西教会合同の際の経緯等から、ローマ皇帝が自制しているから独立しているだけで、実際のところは、
「ローマ皇帝が太陽で、教皇や公会議は月に過ぎない」
と世界中で見る人が多いという現実があった)
それこそ日本が良い例では無いか。
「皇軍来訪」後、急激に日本は拡大して、世界を植民地化したが。
余りにも急激な拡大を行った為に本土と植民地の関係は歪んでいき、北米に至っては戦争の末に独立してしまった。
そして、北米独立戦争終結から20年余りが経ち、日本の多くの植民地が自治領となって、ある程度だが独自の外交権や軍事権を持ちつつある。
ローマ帝国も変わらざるを得まい。
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