第68章―20
ともかくこうした事情から、満州に駐留する日本軍の将兵の多くが、何れは本国以外の出身になる予定だった。
(実際に1610年代以降になると、実際に満州に駐留している日本軍の将兵の8割以上が、自治領出身者で恒常的に占められるようになる。
更に言うと、中南米の自治領から派遣される将兵の多くが混血だったことから、中南米から派遣される将兵については満州の住民から本当に日本兵なのか、と疑念を持たれる例が多発した)
伊達成実少佐や細川忠興少佐らは、その先駆けになったといえる存在だった。
そして、次に違っていたのが、満州に駐留している日本軍の将兵の中で実戦部隊と言えるのは、半分以下と言えることだった。
最も多い兵種は工兵、それも戦闘に余り向かない建設工兵が占めていたからだ。
本来から言えば、満州に派遣される日本軍はそれなりに実戦を想定し、又、女真人を威圧するためにも実戦部隊を多くすべきだっただろうが。
在満州日本軍総司令官の上里清はそれを否定して、敢えて建設工兵を多くしたのだ。
そして、その理由だが。
「上里将軍は、本当に赤誠の御方です。それこそ2万人の軍勢を率いて、満州に来られるというので、どれだけのことが起こるのか、と危惧していましたが。多くの日本兵が工兵で、道路を始めとする様々な生活の為の設備を作って下さるとは。それに女真人を始めとする多くの住民を雇って、それなりの金銭や物資等が労働の見返りとして提供までされる。住民の多くが感謝しております」
「いえ、あくまでも日本の利益が最優先ですから、お気になさらず」
「偽悪にも程がありますぞ。道路が整備されることで、本当に人や物の移動が容易になりました。更に農業を始めとする様々な産業について、日本から様々な指導が為された結果、この満州は豊穣の地になるでしょう。本当に有難い」
「満州の大地が豊かになれば、人が集って増えることになり、ローマ帝国の侵攻があった際に抵抗することが容易になります。そして、それが日本によるモノとなれば、女真人を中心とする満州の民は日本の下に結束するという打算からの行動です」
「はは、そこまで正直に言われては、却ってこちらとしては積極的に味方せざるを得ませんな」
上里清とヌルハチは、1603年のある日、そこまで明け透けな会話を交わしていた。
「それにしても、武人の本懐と言われますが、この度の(日本対女真)戦争で息子二人を亡くされたと聞いた際には、心から驚きました。それこそ息子二人の仇と我々は言われても仕方ないのに、何故にここまでのことを、音頭を取ってされるのですか」
「息子一人は自らの過ちを死をもって償ったのですし、もう一人は機体故障に伴う殉職です。何故に貴方方、女真人を私が恨むことになるのですか」
ヌルハチの問いに、上里清は答えた。
そして、実際に上里清がそう考えているのが、ヌルハチには直感的に分かった。
ヌルハチは考えた。
このような男と会えたこと、更に在満州日本軍総司令官という地位に、この男がいるのを心からの幸運と考えるべきだろう。
この男は、本当に我々の事も考えて行動してくれているのだ。
一方、上里清も考えていた。
ローマ帝国がもしも東進してきた場合、この満州の地が豊穣であれば、欧州の地から遥々遠征して来るローマ帝国軍は補給等の問題から、この地で苦戦を強いられるのは必至だ。
そういうことからすれば、日本が女真人に農業を始めとする様々な産業についての支援を行い、又、道路等の整備に努める必要があるのは自明の理だ。
ヌルハチと上里清、二人の考えは微妙に違っていたが。
こうした二人の考えが発端になり、日本と女真は緊密な関係をこの後に築いていく。
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