第68章―19
さて、海西女直や野人女直との戦いはヌルハチに任せて、満州に駐留するようになった日本軍だが、実態は色々と変わった存在になっていた。
先ず第一に違ったのが。
「伊達成実少佐。住民と協力してのこの地域の道路建設ですが冬までに終わりそうです」
「うん。それは良かった」
「ですが、どうにも私には馴染めません。年末年始は最も暑い頃という中で過ごしてきたのに、ここでは年末年始は寒い季節です。お正月が寒くて雪が降るというのは、本当だったのか、と改めて感じています」
「自分も日本に留学するまではそうだったから、君の気持はよく分かる。それにしても本当に寒くなるぞ。充分に防寒体制を調えるように。我々は常夏と言って良い所から来たのだから」
「はい」
伊達成実少佐は、本来の出身地であるブラジル地域の兵からなる工兵大隊の大隊長に就任していて、部下と共に満州後に赴いていたのだ。
伊達少佐は、改めて同僚の一人である細川忠興少佐が似たようなことを言っていたのを思い出した。
細川少佐はオーストラリア出身で、伊達少佐と同様にオーストラリア出身の兵から成る工兵大隊を率いて、この地に赴いている。
尚、二人が行っている工兵の任務はいわゆる建設工兵としての任務だった。
この満州の土地の道路等を整備することで、交通網を改善していく。
本来ならば鉄道を敷設したいところだが、それは追って行うこととなっており、まずは営口、遼陽、安東、旅順及び大連の四つの拠点をつなぐ主要道(それこそ将来を見据えて上限50トンの戦車を運用可能な舗装道路)を住民の協力を得つつ、建設しつつあった。
伊達少佐は更に考えた。
日本本国にしてみれば、一石二鳥どころかそれ以上を狙った施策だな。
日本本国内で、日系植民地の独立を認めても良いという世論は徐々に高まっているが、そうはいっても感情的に手放したくない、という意見はかなり強い。
こうした現状を踏まえて、まずは各州に対して満州の治安維持のための兵の派遣を求め、その代償として満州に兵を派遣して来た州に対しては、完全な自治領化を認めることにしたのだ。
そして、まずはブラジルとオーストラリアが手を挙げたという次第だ。
更に自分はブラジル出身の兵から成る工兵大隊の大隊長に着任して、この地に赴いたのだ。
日本本国の世論も、満州に駐留する兵を出すことに対しては、余り積極的とは言えない。
日本と女真が手を組むこと自体に反対の声は強くないが、女真が統一された暁には朝鮮やモンゴル(タタール)や明帝国との戦争を女真が起こすのではないか、それに日本が巻き込まれて日本兵が死傷するのではないか、という懸念の声がそれなりにあるのだ。
だから、これまで志願兵が募られていなかった植民地が、植民地出身の兵から成る部隊を満州に派遣する代わりに自治領化を認めて欲しい、との声を挙げたのに対して、それならばそれを認めても良いのでは、という声が挙がるようになって、衆議院や貴族院でそれを認める法律が制定されたのだ。
ともかく自治領となった場合には、その自治領には外交権や軍事権については、それなりの制約があるのだが、内政に関しては日本本国の法律の適用が行われないことになり、自治領議会で法律が制定されるようになったのだ。
(とはいえ、自治領成立当初は、ほぼ日本本国法がそのまま引き継がれることになった)
そして、ブラジルとオーストラリアは自治領化を果たすことになり、ニュージーランドやアルゼンチン、チリやペルー、メキシコ、カリフォルニアといった州も自治領化を果たすために部隊を編制して満州に派遣する準備を整えようとしている。
これは日本本国兵派遣の大幅な負担軽減になっていた。
尚、日系植民地が自治領化を果たすことになった経緯については、この部の中にはなりますが、少し後の章で詳細を描く予定です。
(他にも様々な思惑が絡み合った末のことであり、今、描いては話が逸れすぎます)
ともかく、1605年現在、徐々に日系植民地は自治領化を果たしています。
ご感想等をお待ちしています。




